研究課題/領域番号 |
21K03379
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
勝野 弘康 北海道大学, 低温科学研究所, 博士研究員 (70377927)
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研究分担者 |
上羽 牧夫 愛知工業大学, 工学部, 教授 (30183213)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 相転換 / 温度変調 / 微小クラスタ反応 / 非線形過程 / ヴィエドマ熟成 |
研究実績の概要 |
温度などの条件を一定に保った系で結晶が成長すると,その成長過程で一時的に小さな準安定相結晶が形成されたとしても,最終的には平衡状態に達する.本研究では,安定相結晶を準安定相結晶へと変換する機構について検討する. 溶液成長の非平衡環境としてガラスビーズによる定常的な結晶粉砕と周期的な温度変化を想定した.温度を変化させることから結晶の平衡サイズ分布が常に変化するため,結晶サイズ分布の時間変化を扱うベッカーデリング模型に着目した.この模型の合体過程を一般化し,数個の分子で構成される小さなサイズの結晶(クラスタ)の結晶への合体を取り入れた.安定相と準安定相の2つの相を扱えるように拡張して,結晶粉砕過程や温度変化による溶解度変化を考慮して結晶サイズ分布の変化を調べた. あらかじめ安定相結晶と準安定相結晶を共存させておき,定常的な結晶粉砕もしくは周期的な温度変化を行う.いずれの場合でもエネルギー不利な準安定相結晶の量を多くしておくことで,安定相結晶を準安定相結晶に転換させることが可能であることを確認できた.その相対質量差は指数関数的に増幅することから,ヴィエドマ熟成のようなカイラル結晶の転換と類似した振る舞いであることがわかった.周期的な温度変化について詳細に調べたところ,結晶が溶解する高温において結晶量の差が増大している.これは結晶量が多い相のクラスタが早急に飽和することで,実効的な結晶溶解速度が小さくなるためであることを見出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,結晶粉砕と温度変調の相転換の可能性について検討を行い,両者が似た振る舞いを示すことを見出し,エネルギー有利な安定相をエネルギー不利な準安定相へと変換できることがわかった.これまでは,双安定な系であるカイラル結晶の転換のみに注目が集まっていたが,より一般的にエネルギー差のある2相を持つ系にも適用できることを示すことができた. 温度変調の相転換機構についても明確にすることができた.当初計画では,本年度には温度変調に関する詳細な検討の前段階として,模型化が簡単な結晶粉砕についてのみ研究を進める予定であったが,研究が順調に進んだため予定を前倒しした. また,本研究の仮定であるクラスタ合体過程の直接観察にむけた準備も進めている.本研究で想定している溶液成長をナノスケールで観察できる溶液TEMその場観察では,一般に像が非常に不鮮明である.不鮮明なTEM像を改善するためのフィルタを機械学習で実現できた.
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今後の研究の推進方策 |
温度を変化させて過渡的な状態を作り出すことで温度変調型相転換が可能であることを発見することができた.それだけでなく,その機構として結晶成長速度の変化が重要であることが分かった.初年度で模型開発の主な部分を終えることができたため,より詳細な解析にとりかかる.当初の予定通り,温度の変化幅や温度周期といった結晶成長環境の操作,溶解度のような物性値の変化に対して,結晶成長速度や相転換速度がどのように変化するのかを数値的に明らかにしていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で出張制限があり,研究打ち合わせや学会の現地参加ができなかったため次年度使用額が生じた.今年度は出張制限も緩和され学会の現地開催も予定されているので,積極的に成果報告や今後の展開の打合せのための出張を実施する.
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