研究課題/領域番号 |
21K03380
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
松枝 宏明 東北大学, 工学研究科, 教授 (20396518)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 特異値分解 / エンタングルメント |
研究実績の概要 |
理論物理学の多方面の難問題に対して,量子情報論におけるエンタングルメント(量子もつれ)や時空物理におけるホログラフィー原理(高次元的視点)の概念が非常に共通且つ有用な横ぐしの役割を果たしている.それにより,従来と全く異なる視点から,様々な問題に柔軟にアプローチすることが可能となる.これらの概念の機能性を深く追求しながら,(1)量子的特異値分解の開発と応用,(2)物性における量子多体問題の視点からのホログラフィーの解析と量子系の特徴表現,(3)量子多体系の複合励起描像による量子特徴抽出の研究,の3点を実現することが本課題3年間の計画である.計画初年度である2021年度は,(1)の基礎的な定式化の一つである量子相関行列の特異値分解(主成分解析)を完成し,1次元量子スピン系に対して適用することで,量子的に揺らぎの強い系の効果的な特徴分析を行うことができた.またここにホログラフィー原理に繋がりうる情報が含まれていることも見出し,エンタングルメントとホログラフィーの関係性を更に追求するヒントを得た.また,基礎数理だけではなく,(3)の一部あるいは量子情報技術への出口を目指す過程として,量子ビット系に対する光によるエンタングルメント生成の実践研究も進めた.ここでは光照射後の系の時間発展において,系を表現する重要な基底の動的変化を理解するための特異値解析を実施した.両者の研究共に,研究成果の一部は学術論文として出版した.後者の研究については論文誌の editor's choice に選出された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は概ね順調に進展している.工学部に所属していることもあり,また昨今の量子技術の進展の影響から,単に量子的特異値分解の基礎数理を深めるだけでなく,将来の量子情報通信につながるような物性論的視点からの課題設定と実施に対する共同研究の申し入れ等もあった.そのため,当初予定していた研究の順序を超えて,出口戦略の検討が進展した.特に,物質中の量子もつれの観測や制御といった部分に,上記で設定した(1)(2)(3)をどのように応用していくかということが新たな課題として追加された.
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今後の研究の推進方策 |
上記課題(1)については,2022年度から新たに松枝研究室に配属された助教の方の協力も得ながら,量子回路上で効果的に主成分を抽出する量子アルゴリズムの研究も進められるか検討する.課題(2)ではホログラフィーの物性的視点の研究である課題(2)は,数学的整備が進んできており論文執筆中である.また課題(1)(3)における量子特徴抽出を要する具体的な物性の問題として,量子ビット制御に関わる量子的特徴抽出や物質中の量子もつれの観測理論,量子エネルギーテレポーテーションの機能性の研究など,単純にエンタングルメント・エントロピーを計算する以上に系の量子もつれ状態を深く理解しなければいけない量子多体問題が派生しつつある.スピントロニクスのLLG方程式や情報熱力学などの新たな技術も投入しながら,様々な技術に繋がりうるこれらの課題の基礎部分を確立できるように研究を進めたい.
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