研究課題/領域番号 |
21K03385
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研究機関 | 立正大学 |
研究代表者 |
家富 洋 立正大学, データサイエンス学部, 教授 (20168090)
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研究分担者 |
相馬 亘 立正大学, データサイエンス学部, 教授 (50395117)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | エコーチェンバー / ソーシャルネットワーキングサービス / 有向ネットワーク / 蝶ネクタイ構造 / 強連結成分 / Helmholtz--Hodge分解 / 社会的分断 / サイクル基底 |
研究実績の概要 |
本研究は,ソーシャル・ネットワーキング・サービス上で形成されるエコーチェンバーの構造やその形成過程を数理的に解明することを目指している。
これまでに,コロナ禍直前の2019年10月1日から東京オリンピック直前の2021年5月末までの期間にわたって,ワクチンに関して日本語で発信されたTwitterのデータを網羅的に収集した。このデータから構築されたリツイートネットワークの最大弱連結成分のノード数は453,755であり,リンク数は2,177,138である。ノードを発信者とし,リンクはリツイートの元となるツイートの発信者からリツイートの発信者に向かって張る(情報伝搬の向き)。得られたリツイートネットワーク上でどのようなエコーチェンバーが形成されたかについて解析した。エコーチェンバーは,15,698個のノードと299,733本のリンクから成る巨大強連結成分(第2番目に大きい強連結成分はわずか14ノード)として検出される。確かに,ワクチンに関するエコーチェンバーは存在し,コミュニティ抽出を行うことにより,エコーチェンバーは主として3つの互いに反発するコミュニティからなることを見出した。各ツイートに付属のハッシュタグからコミュニティの特徴づけを行なった。1つのコミュニティは反ワクチン派の集まりであり,他の2つのコミュニティはワクチン支持派であり,それらは対立する。さらにワクチン支持派は与党側と野党側に分かれている。特に,野党側コミュニティは東京オリンピックへの反対を大きなスローガンとしている。このように我が国においては,ワクチン接種の賛否と政治的論争は独立してることを明らかにした。この事実はワクチン接種率と民主党・共和党支持とが強く相関している米国とは対照的である。
以上の研究成果は,国内の学会・研究会ばかりではなく,複雑ネットワークに関する国際会議においても報告された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本におけるTwitterデータの収集と構築されたリツイート・ネットワークの解析については,順調に進めた。これまでに「ワクチン」を収集のキーワードとして2022年12月末までのリツイートの収集を完了した。また,手法面においても強連結成分に含まれる主要なループ流成分(エコーチェンバーの中核)を検出する方法について新しい着想を得た。研究成果の外部発信の面では,コロナ禍もあり,少し当初計画より遅れているため,本判断を下した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究の進展状況を踏まえて,以下のように本研究を推進する。 1)コロナウイルスに対するワクチンばかりではなく,その取り扱いも重要な話題となっている。医療,経済,政治,世代間ギャップ等々の問題がどのように絡み合っているのかを明らかにするため,コロナ,2類,5類などをキーワードと選択してリツイートの収集を試みる。 2)グラフのサイクル基底理論を用いて,エコーチェンバーの中核を成す強連結成分に含まれる主要なループ流成分を検出する。まず最小サイクル基底を構築し,ヘルムホルツーホッジ分解で得られたループ流を最小サイクル基底で展開する。次に,基底変換を繰り返すことにより,サイクル基底の展開係数強度の局在化を図る。このように最適化されたサイクル基底が主要なループ流成分を与える。局在化の度合いを測る指標としては,ハーフィンダール・ハーシュマン指数を用いる。 3)エコチェンバーの構造的性質ばかりではなく,エコチェンバー上の情報伝搬についても解析し,エコーチェンバーの新しい形成メカニズムを探る。リツイートネットワークの特徴として各リンクにタイムスタンプが付加されており,循環的な情報伝播(自分が発信した情報によって自分自身が影響を受ける)が実際に発生したかどうかを調べることができる。もし無視できないそのような情報の因果的ループ流が存在すれば,情報の偏在化が動的に生じている可能性が示唆される。 4)検出されたエコーチェンバーについて,その中に含まれるリツイートに付属のハッシュタグを用いて簡易的にエコーチェンバーの特徴づけをすでに行った。さらに,自然言語処理およびトピックモデルを用いてエコーチェンバーの特徴づけの精度や詳細度を向上させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症対策の緩和により,ようやく昨年11月末にイタリアで開催された国際会議で研究成果を発表することができたものの,当初の計画を達成できず,計上していた旅費の一部が未使用となった。繰り越した予算は,本研究の成果を広く公開するために,国際会議や国内の学会,研究会で研究成果を発表するための旅費,出版する学術論文のオープンアクセス化経費として使用する予定である。
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