研究実績の概要 |
レーザーを用いた冷却では、フォトンの吸収・放出により、 原子の運動量をランダムに変化させる。実験的には、Velocity Selective Coherent Population Trapping により、運動量に応じてフォトンの吸収・放出を変化させ、低温の原子はフォトンとエネルギーのやり取りを行わないようにすることができる。したがって、冷却過程は、運動量空間上で不均一なジャンプ率を導入したランダムウォークで記述される。このランダムウォークモデルは運動量ゼロに向かう力がないにもかかわらず、運動量は分布としてゼロに向かっていく。このような分布関数や統計量が時々刻々と変化する非定常な過程では、従来の定常性を仮定した確率論によるアプローチができないため、その理論的取り扱いが困難になっている。これまで、何故、そして、どのように運動量 がゼロになるか直感的には理解されているが、冷却された気体の運動論は明らかになっていない。 本研究の目的は、レーザー冷却により冷却された原子(気体)の運動論を構築する事である。 本年度は、レーザー冷却の1粒子のモデルとして、三つの確率モデルのエルゴード特性を研究し、運動量空間上のプロパゲーターが無限測度へ近づいていくことを示し、エネルギーの時間平均がモデルパラメータに応じて、様々な分布へ収束することを解析的に示すことができた。これらの成果は、以下の論文で出版された。 T. Akimoto, E. Barkai, and G. Radons, “Infinite ergodic theory for three heterogeneous stochastic models with application to subrecoil laser cooling,” Phys. Rev. E 105, 064126 (2022).
|