研究課題/領域番号 |
21K03395
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
大塚 雄一 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究センター, 研究員 (30390652)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 物性理論 / 強相関電子系 / トポロジカル絶縁体 / 量子モンテカルロ法 / 量子相転移 / パイロクロア格子 / モット転移 / 高次トポロジカル絶縁体 |
研究実績の概要 |
トポロジカル現象の研究は現代の物質科学における一大潮流となっている。これまでは主として一体問題の範疇で議論されることが多かったが、今後さらなる基礎概念の確立や新たな物質開発を目指す上では、相関効果の解明が重要となると考えられる。トポロジカルな性質が現れる系では、多くの場合その背後に何らかの対称性が存在する。このため、その対称性を利用した負符号のない量子モンテカルロ計算が可能となることが認識されつつある。本研究では、そのような量子モンテカルロ計算が可能となる格子模型を探索し、強相関効果を考えることで初めて現れるトポロジカル現象の解明を目的とした数値シミュレーションを行うことを目的とている。具体的には、最近注目されている高次トポロジカル絶縁体において予想されている、高次トポロジカルモット絶縁体の素性の解明を目指している。通常のトポロジカル絶縁体ではd次元のバルクが非自明なトポロジカル相であるとき、いわゆるバルク・エッジ対応により(d-1)次元の端に局在状態が現れる事が知られている。それに対し、高次トポロジカル絶縁体では(d-2)次元あるいは(d-3)次元といったより次元性の低い局在状態が出現する。この局在状態はバンド絶縁体的、すなわち電荷にもスピンにもギャップが開いているが、電子相関効果を陽に考えると電荷のみにギャップを持つモット的な状態になることが指摘されている[PRL, 196402, (2019)]。この先行研究はカゴメ格子に対する厳密対角化の結果であり、有限サイズ効果による制限から、トポロジカル相転移前後のギャップの定量的評価や精密な相図の決定には至っていない。そこで本研究では、厳密対角化等では取り扱うことが困難である3次元のパイロクロア格子上における高次トポロジカルモット絶縁体の詳細な相図の決定を目的として大規模な量子モンテカルロ計算による研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、補助場QMC法によるトポロジカル量子相転移の解明というサブ課題について、スピンギャップのみが閉じることによるトポロジカル量子相転移という予想を数値的に検証することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
トポロジカル量子相転移のギャップの存在による検証方法はやや間接的であるとも言え、厳密にトポロジカル量子相転移であることを示すには、トポロジカル数を計算することが理想的である。ただし、電子系に対する補助場量子モンテカルロ法ででトポロジカル数を計算する方法は知られておらず、また波動関数を直接求める厳密対角化法はサイズの問題から非常に限定的となる。そこで、電子間相互作用が強い極限を考えた有効スピン模型を導出し、これに関するZ4スピンベリー位相の計算を行う。手法としては、最小のバルク系(32サイト)に対しては厳密対角化による結果の妥当性を行いつつ、より大きな系に対しては、Stochastic Series Expansion (SSE)-QMC法を用いることを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の流行により、予定していた海外出張が不可能となったため。また、同様の理由により所属機関のサーバルームの立ち入りに制限がかかり、ワークステーションの導入が遅れることになったため。
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