研究課題/領域番号 |
21K03398
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
出口 哲生 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (70227544)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 量子ソリトン / ダークソリトン / リーブ・リニガー模型 / グロス・ピタエフスキー方程式 |
研究実績の概要 |
相互作用するボース・アインシュタイン凝縮体(BEC)における巨視的波動関数の静的および動的な振る舞いは、グロス・ピタエフスキー(GP)方程式によって良く記述されることが知られている。1次元系のGP方程式において相互作用定数が正で斥力的な場合、ダークソリトン解が出現する。この場合の巨視的波動関数は、定数値の場が領域全体に広がり、場の振幅が小さくなる領域が局在する。場がゼロでない値をとる領域が広いため、通常の局在波とは様相が異なる。このためダークソリトンの厳密な取り扱いは容易でなく、例えば逆散乱法も技術的に難しく、Faddeev and Takhtajan (1987) ではじめて完全に定式化された。しかし、斥力の場合はBECと関係し、物理的には興味深い。 リープ・リニガー模型は一次元ボース気体の理論模型であるが可解であり、全ての固有状態がベーテ固有状態で与えられる。この系の第二量子化系において、量子場が従う量子ハイゼンベルグ方程式はGP方程式と一致する。このため量子場の古典極限を仮定すると、一次元ボース気体の量子状態からGP方程式の解のソリトン解が導かれることが期待される。ただし、この対応関係は全く自明でなく、そもそも場の演算子の古典極限の存在は未解明である。しかし最近、弱結合の場合に、リープ・リニガー模型の固有状態から密度プロファイルがダークソリトンと一致するような量子状態が導かれた。 本研究はこの結果を拡張し、2個のダークソリトンで表されるような密度プロファイルを持つ量子状態を、リープ・リニガー模型の固有状態を用いて構築した。二つの粒子・ホール励起対を持つベーテ固有状態を厳密に構築し、その重ね合わせから導いた。さらに、1個のダークソリトンの密度プロファイルを持つ量子状態でその位相場の境界条件が周期的でなくゼロでない巻き数を持つ場合を今回はじめて導いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度の実施計画の中での中心的な課題は、密度プロファイルが2個のダークソリトンで近似できるような量子状態、すなわち量子2ダークソリトン状態、の構築であった。この目的は達成された。論文も出版された。一方、ハイゼンベルグ模型の研究は研究成果は導かれているが論文作成は完了していない。以上を総合的に判断すると、おおむね順調に進展している、と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
量子スピン系における研究も進展している。下向きスピン2個の場合に、ベーテ方程式の量子数の可能な全ての場合が求められた。この量子数の全ての組から、下向きスピン2個のセクターにおいて全ての量子状態を構築可能であり、その結果、任意の初期状態に対する量子ダイナミクスを厳密に実行できる。しかし、まだ量子数に関する論文が完成していない。そこで、論文作成作業を完了させることが、今後の最初の課題である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究連絡や学会参加のための旅費およびワークステーションの購入費用を予算として計上してあった。しかし、コロナ禍のため、国内と国外のどちらもオンサイトでの研究会の開催が取りやめになってオンライン参加となったため、旅費の支出の機会を失った。さらに、半導体不足のために年度内の計算機の購入が難しくなったため、購入を次年度に延期した。以上の理由により、次年度使用額が生じた。
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