研究課題/領域番号 |
21K03404
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
大信田 丈志 鳥取大学, 工学研究科, 助教 (50294343)
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研究分担者 |
後藤 晋 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 教授 (40321616)
松本 剛 京都大学, 理学研究科, 助教 (20346076)
大槻 道夫 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 准教授 (30456751)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | コロイド液体 / 変位相関 / 剪断歪み相関 / 剪断弾性 / 乱流 / ラグランジュ的な相関 / 対数発散 |
研究実績の概要 |
旧プロジェクト〔基盤(C)18K03459〕の成果を引き継ぐ形で、いわゆるガラス系の標準的なモデルのひとつであるコロイド液体に関する理論的な研究を行った。 本研究で扱うコロイド液体とは、斥力相互作用する多数のブラウン粒子が懸濁した系の液体状態のことをいう。このような系では、系の濃度を上げると、粒子が互いの運動を妨げあうため、個々の粒子のバラバラな運動が抑制され、多くの粒子が協調した運動が生じる。この協同運動と、より高密度の「流れない液体」が示す弾性的な応答との関係を探るために、弾性体の剪断歪みに基づく統計量を用いた先行研究が盛んに行われてきた。 我々の旧プロジェクトでは、コロイド液体における変位相関および剪断歪み相関をミクロな変形勾配テンソルのラグランジュ相関と関係づける理論を構築した。ここでラグランジュ相関とは、粒子の集団に貼り付いて動く曲線座標系での記述に基づく相関のことである。このような記述では計算が複雑化する(特に粗視化の手続きと整合させるために一見すると遠回りな手続きが必要になる)が、それと引き換えに、並進運動に基づく見かけの時間変化を粒子集団の変形に伴う時間変化と切り分けられるという利点がある。 この理論を踏まえ、本プロジェクトでの今年度の研究では、コロイド液体の数値計算データから変位相関と剪断歪み相関を計算し、両者の関係および濃度依存性を検討した。その結果、変位相関に含まれる情報の一部が、剪断歪み相関からは欠落していることが分かった。より具体的には、変位相関は短距離側で対数発散することを数値的に示し、それに対応するものは剪断歪み相関には現れないことを理論的に示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
既に初年度の報告書に書いたような、Covid19問題による研究計画の遅れがあり、その影響が未だに続いている。 もともと、本プロジェクトの計画時点で目指していたものは、濃密な液体における弾性の出現機構と、高Reynolds数の流体乱流における渦粘性の出現機構とを並行して考察することにより、それぞれを第一原理的に基礎づけられる統計理論を構築することである。そのための基礎として、科研費プロジェクト18K03459(旧プロジェクト)の成果をまずまとめる必要があった。しかし、Covid19問題の影響により、理論的な研究を進めるための対面での議論が2021年度には事実上不可能となり、さらに遠隔講義等に時間を取られるなどの事情も重なって、旧プロジェクトは大幅に遅延することとなった。 幸いにして旧プロジェクトは延長が認められたため、こちらに労力を注ぐのが先決であると判断し、本プロジェクトの始動を遅らせ、研究計画を後ろ倒しにした。その後、2022年の夏には対面での議論を部分的に復活させる機会があり、そこでの議論がもとになって変位相関の対数発散などに関する研究成果が得られたが、研究計画の遅れを取り戻すには至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
まずは旧プロジェクトの研究成果と、それを応用することで本プロジェクトで分かった対数発散に関する研究成果を論文にまとめる。 並行して、変位相関が短距離側で示す対数発散が意味するものについて、粒子系の統計理論に関係づけて理解することを試みる。これにより、我々が今までの研究を通じて構想し議論してきた、ラグランジュ的な相関に基づく完結近似理論(いわゆるL-MCT)を具体化できる可能性を探る。 さらに、Covid19問題の趨勢を見極めつつ、対面での議論の場を確保することができれば、だいぶ研究が進むことが期待できる。情勢が許すならば、当初の計画で想定していたような、合宿形式での議論の場を復活させることも検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
進捗状況の項目に書いたとおり、研究計画自体が後ろ倒しになっていることが主要な理由である。加えて、Covid19による授業への影響の可能性を考えると出張を気軽に行うわけにもいかない状況が続いたことや、学会が対面でなくオンライン開催となった回があることも、旅費の支出を抑制する要因となった(これは決して効率化などではなく、Covid19問題によるペースダウンを意味するに過ぎないことを強調したい)。 もし次年度以降の研究が「今後の研究の推進方策」に書いたとおりに進められるような情勢になるのであれば、繰り越した金額は、後ろ倒しにした計画にそのまま従い、主に旅費として支出されるものと想定している。
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