予定より早く研究が進展したため,前年度より,純虚数ポテンシャルを加えた非エルミートな量子スピンホール絶縁体におけるバルク境界対応に関する研究を開始した.この系では非エルミート表皮効果が顕在化する.この非エルミートなトポロジカル系に対して独自のバルク境界対応の枠組みを適用し,修正周期境界条件を課した端のないバルク形状におけるトポロジカル不変量の振る舞いから,端のある境界形状の相図を導出することに成功した.最終年度(2023年度)は非エルミートな量子スピンホール絶縁体の境界形状スペクトルを大きな格子系を用いて数値計算し,その結果と得られた相図を比較することにより,バルク境界対応の正当性を検証した.両者は良い一致を示し,非エルミートな量子スピンホール絶縁体においてもバルク境界対応が精密に成り立つことを示すことができた.これらの結果をまとめ,一編の論文として出版した. この成果により,当初予定していた非エルミートなチャーン絶縁体とキタエフ鎖模型に加えて,非エルミートな量子スピンホール絶縁体においても,修正周期境界条件を用いたバルク境界対応の枠組みが精密に機能することを明らかにした. これで本来の研究目的はほぼ達成できたので,新しい発展的な課題として,非エルミートな一次元系における散乱問題について検討した.非エルミートな系では粒子数が保存しないため,電荷流の演算子を定義する枠組みも整理されていない.我々は,系に含まれる非エルミート性は外界との結合によって生じた有効ハミルトニアンと見なす立場に立ち,外界との結合(粒子の出入り)を考慮すると,粒子数の保存則を満たす電荷流の演算子が定義できることを示した.また,この結果を数値計算によって検証した.この成果も一編の論文として出版した.
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