研究課題/領域番号 |
21K03410
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
原山 卓久 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (70247229)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 波動カオス / 非線形ダイナミクス / 2次元マイクロキャビティレーザー / 共鳴波動関数 / カオス系の普遍測 |
研究実績の概要 |
円形や矩形のレーザーキャビティでは光線軌道は規則正しい図形を描き、固有波動関数も規則的な波動パターンとなる。これに対して、変形キャビティでは、形状に起因する非線形性により、光線軌道が複雑な軌跡を描く光線カオスを生じ、固有関数が複雑な波動パターンとなる波動カオスを生じる。2次元形状を有するマイクロキャビティレーザーは、キャビティ形状に起因する非線形性に加え、共鳴波動関数がレーザー媒質を介して相互作用し非常に複雑で豊かな非線形ダイナミクスを呈するというもう1つの非線形性をも含んでいる。我々は、このような従来の波動カオス研究では扱われてこなかった2重の非線形性が、レーザー媒質をマイクロキャビティ内部に一様分布させた場合には、キャビティ全体に広がった波動関数による普遍的単一モード発振という新しいカオス系の普遍則をもたらすことを明らかにした。 我々はこの研究をさらに発展させ、レーザー媒質が一様に分布していない選択励起の場合に起きる新しい2重非線形現象を理論と数値計算により解明した。完全カオスキャビティのすべての共鳴波動関数はキャビティ全体に広がっていて、レーザー媒質が存在するキャビティの一部分の選択励起領域との重なりが小さいため、1つの共鳴波動関数だけでレーザー媒質を通じて外部から注入されるエネルギーを獲得しようとすることは非常に効率が悪い。そのため、複数の共鳴波動関数が同時に発振し、レーザー媒質を介した非線形相互作用により協力し、それら複数の共鳴波動関数を互いに重ね合わせることで、レーザー媒質の存在する領域にだけ発振状態の強度パターンを局在させ、効率を向上させることを解明した。特に、選択励起領域を不安定周期軌道上に設定したときに得られる発振状態を、共鳴波動関数の自己組織化により形成された非線形スカーモードとよび、量子カオス分野で知られている線形スカーモードと区別している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、キャビティ形状に起因する非線形性と、レーザー媒質いう2重の非線形性が、レーザー媒質をマイクロキャビティ内部に一様分布させた場合に、どのような新しいカオス系の普遍則をもたらすのか、という問題を、理論と数値計算により解明することを目的としていた。 まずこの問題に対して、光線軌道が完全カオスとなるような形状の2次元マイクロキャビティでは、縦緩和率よりも固有周波数差が小さく重なりが大きい共鳴波動関数たちはレーザー媒質を介して外部からの注入エネルギーを奪い合い、ただ1つのレーザー発振モードが他の共鳴波動関数のレーザー発振を抑制することを解明した。 この研究の中で、波動関数がキャビティ全体に広がっていることと、レーザー媒質が同じくキャビティ全体に広がっていることが、上記普遍則をもたらすことに気付いた。これを確認するため、逆にレーザー媒質が局所的にしか存在しない選択励起の場合を調べたところ、普遍則の条件を明らかにするとともに、共鳴波動関数たちが自己組織的に協力してレーザー媒質の存在領域だけに局在したレーザー発振状態を形成することを発見した。これにより、一様励起の場合の単一モード発振も含めて、注入エネルギーを最も効率よく吸収する最適な光強度分布を共鳴たちが自己組織的に形成するということが、より一般的な原理であることが明らかになりつつあるが、これは当初計画以上の進展であると考えている。 さらに、安定なリング型の光線軌道の存在する弱いカオスとなるような完全非対称なキャビティ形状において、非エルミートな境界条件に特有な、同じ方向の回転波成分を多く有する近縮退共鳴であるカイラルペアの、ロッキングによる一方向のみの回転波成分だけを有するレーザー発振モードの形成というカイラルペア発振の普遍則も明らかにできたが、これも完全カオスでなく弱いカオスに関する成果で当初計画以上の進展である。
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今後の研究の推進方策 |
外部からの注入エネルギーを最も効率よく吸収する最適な光強度分布を共鳴たちが自己組織的に形成しレーザー発振するということが、2次元マイクロキャビティレーザーの発振ダイナミクスのより一般的な原理であることを明らかにすることが今後の研究で最も重要な課題である。これを解明するためには、レーザー媒質の存在領域を様々に変化させることが必要である。しかし、そのバラエティはあまりにも多いので、残り一年間で調べることのできる場合をよく検討して進めることが重要である。 また、カイラルペアのレーザー発振に関しては、まず、重要なこととして、2つのキャビティ形状を決定するパラメータを変化させたときに、カイラルペアが完全縮退となるExceptional Pointを確定することが必要である。そのためには、パラメータ空間でカイラルペアの共鳴分布を描く必要があり、それには膨大な数値計算が必要である。これにより、Exceptional Pointの位置が特定できれば、その周辺でのレーザー発振ダイナミクスを詳細に調べることができるようになる。これにより、時計・反時計回りそれぞれの一方向回転波成分のレーザー発振モードが最終発振状態となるような初期状態がどのような割合で存在するかが明らかになる。さらに、これを、形状を決定する2つのパラメータをカイラルペアが1つだけの共鳴となるExceptional Pointに近付けながら調べる。これにより、Exceptional Pointでのレーザー発振ダイナミクスがその周辺での形状パラメータの場合とどのように接続しているのかを解明できる。以上の方向の研究で、光線軌道が弱いカオスとなる完全非対称な形状のキャビティにおける2重の非線形性がもたらす普遍則を明らかにできる。しかし、上述の数値計算には膨大な時間を掛かるので、残り一年間で可能なことをよく検討して進めることが重要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
対面参加予定だった国際会議がハイブリッド開催となり、準備期間の確保や航空運賃の高騰を考慮して、オンライン参加に変更したため、次年度使用額が生じた。 次年度は、招待講演を依頼されているニュージーランドでの国際会議に参加予定であり、研究室の学生も発表予定である。他に、韓国、中国等の研究室から招待を受けているので、これらの研究室を訪問し、講演を行う予定である。次年度使用額は、主に、これらの国際会議等への参加のための旅費として使用する予定である。
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