研究課題/領域番号 |
21K03411
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研究機関 | 大阪電気通信大学 |
研究代表者 |
柳田 達雄 大阪電気通信大学, 工学部, 教授 (80242262)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ハミルトンダイナミクス / ビーズスプリングモデル / 準平衡状態 / 多時間摂動論 / 遅い緩和 / 動的形態形成 / 高分子 |
研究実績の概要 |
共有結合・分子結合,分岐やループなどの非一様な結合構造による局所運動が生体高分子の機能に関与している.本研究は,生体高分子を粗視化した力学モデルである質点がバネでつながった系(ビーズスプリングモデル)が創出するダイナミクスを数値および理論的に解明し,機能生成に重要と考えられる不均一運動状態や分子形態形成機構を明らかにすることを目的とする. 本年度は,(1)ビーズスプリング分子の伸縮振動を与えると,励起モードに応じて分子形態が変化することを数値的に示しDynamical Induced Conformation(動的形態形成)として物理学会などにおいて報告した.特に,同位相で鎖状の分子間の振動を励起すると直線上の形態を保持し,反位相で振動を励起すると屈曲した分子形態が保持される.これらの結果は分子間ポテンシャルの極小値で規定される静的な形態とはことなる形態を振動の励起により動的に生成できることを示している.この動的形態変化を多時間摂動論により理論的に解析し,伸縮振動の励起にともない屈曲角の対する有効ポテンシャルの変化として理論的に捉えられた.これらの結果は学術雑誌(Physical Review E, 105, pp. 064201--064215 (2022))に掲載された. (2)ビーズスプリング分子の結合バネを剛体棒に置換したモデルは運動にHolonomicな拘束があるため,特徴的な熱力学的振る舞いが現れる.その1つが分子の運動エネルギーが非一様となることが数値的に示してきた.一方で,3粒子系の場合にはビーズ粒子の運動エネルギーの統計平均を厳密に求めることができ,非一様性,すなわち,外側にある粒子と内側にある粒子の運動エネルギーの平均値の大小関係が温度に依存して変化することを解析的に示し,これらの結果は学術雑誌(Journal of Statistical Physics volume, 190, pp. 1--34 (2023))に掲載された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
時間スケールの異なる運動が内包しているヘテロ結合分子の動的振る舞いを解析してきた.特に,励起する振動モードに伴い分子形態が変化する,Dynamically Induced Comformation (動的形態形成)を明らかにした.また,このようなヘテロ分子と溶媒粒子が相互作用により系全体がエネルギー非一様状態となる準平衡状態を数値および理論的に示してきた.さらに,分子間の結合バネを剛体棒(リンク)に置換した場合の熱力学的な振る舞いを解析的に求め,温度に依存して,運動エネルギーの非一様が変化する転移を見出した.これらの結果は学会などにおける口頭発表および学術雑誌に掲載されている.このように本研究課題は概ね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
先に述べたように,本研究課題は概ね順調に進展しており研究成果も学術雑誌に掲載されている.今後は,伸縮振動の励起に伴う分子の変化が溶媒粒子と相互作用した場合にどのように維持されるかを準平衡状態の観点から明らかにする.また,動的に形成された分子形態がエスケープ率や拡散係数などの物理量に与える影響を解析する.これらの研究は数値的な解析が主となり大規模計算となるため,演算速度の優れた計算機を導入してこれらの大規模シミュレーションを実行する.また,鎖状のビーズスプリングモデルを拡張して複雑な結合構造を持つ分子の振動モードの励起に伴う形態変化を解析する.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナにため海外における国際会議への参加を見送り,また,本年度は主に解析的な研究を実行したため,数値計算機や情報保持装置の増強購入を見合わせたために次年度使用額が生じた次第である.次年度においては数値解析による研究を実行するため計算機の増強を実施しさらなる研究の推進をすすめる.また,これまでコロナのため海外における国際会議への参加を見合わせてきたが,次年度はこれまでの研究成果を国際会議において発表する予定である.
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