研究課題/領域番号 |
21K03412
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
高吉 慎太郎 甲南大学, 理工学部, 准教授 (80710722)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 乱れた系 / 低次元量子系 / 密度行列繰り込み群 |
研究実績の概要 |
密度行列繰り込み群(DMRG)によって量子系の基底状態を求め、スペクトル関数を高精度で計算するKernel Polynomial methodを併用するChebyshev MPS法のシミュレーションコードを用いて、スピンのない乱れた1次元電子系における動的伝導率を計算した。相互作用のない場合については厳密対角化を用いた数値計算も実施し、Chebyshev MPS法による計算結果と比較することでベンチマークテストをおこなった結果、十分大きなサイズの系に対して精度よく動的伝導率を計算できていることが確認できた。そこでこの手法を隣接サイト間に斥力相互作用が働くような系に対して適用し、動的伝導率の振る舞いを解析した。乱れた系の動的伝導率スペクトルは、局在長に対応するエネルギースケールを境界として、低エネルギー側と高エネルギー側に分けられる。高エネルギー側の領域では、動的伝導率はエネルギーのべき乗で減衰し、そのべきはボソン化場の理論から予言される。相互作用の弱い領域では、数値計算から得られた減衰のべきは場の理論の予言と一致するが、相互作用が強くなるにしたがって乖離が大きくなることが確かめられた。また局在長に対応するエネルギースケールが、乱れの大きさの4/3乗に比例するとともに、そのエネルギースケールにおける動的伝導率のピーク強度が-4/3乗に比例することも確認した。低エネルギー側の領域では、動的伝導率の振る舞いが相互作用の大きさに依存せず、相互作用のない系と同様に(ωln(ω))^2という関数系でスケールすることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Chebyshev MPS法のシミュレーションコードを用いた数値計算によって得られたスピンのない乱れた1次元電子系における動的伝導率の振る舞いについて、これまでに得られた結果を論文の形にまとめることができた。この論文は"The European Physical Journal D"誌のVolume 76, Page 213に掲載された。また関連テーマに関して以下のような結果が得られている。(1) 交流磁場に対する量子反強磁性体の2次磁気応答を調べ、直線偏光の場合には第二高調波発生を引き起こし、円偏光の場合にはゼロ周波数応答によって、変更の向きで決まる方向の磁化が生じることを、摂動的なアプローチで示した。(2) 拡張ハバード模型で記述される光ドープされた1次元モット絶縁体の準安定状態が、スピン・電荷・η-スピン分離を示すことを明らかにした。すなわち、クーロン相互作用が大きい場合に系の波動関数がスピン・電荷・η-スピン自由度の波動関数の直積によって表現できることを示した。
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今後の研究の推進方策 |
スピンのない乱れた1次元電子系における動的伝導率の計算については一定の結果を得ることができたので、さらにスピン自由度も考慮に入れて、モット絶縁体に対する解析を進めていく予定である。手法については引き続き、密度行列繰り込み群や厳密対角化などを用いた数値シミュレーションを中心におこなっていく。スピン自由度を取り入れたことにより、スピン密度波や超伝導といった多様な状態が現れてくるため、それらの状態に対する乱れの効果を検証したい。またスピンのない系の動的伝導率についても、相互作用が強い領域ではボソン化場の理論の予言する振る舞いから乖離が見られ、数値計算で得られた結果の定性的な理解がまだ十分に得られていない。変分法などのアプローチを適用することにより、動的伝導率の非摂動的な解析に取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に新型コロナウイルス感染症蔓延の影響により、研究集会や研究打ち合わせのための出張がほとんどキャンセルとなり旅費が支出できず、多額の繰り越しが生じた影響が残っている。次年度は、引き続き出張および研究成果発表を主として研究費を使用する。
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