研究課題/領域番号 |
21K03413
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
明楽 浩史 北海道大学, 工学研究院, 教授 (20184129)
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研究分担者 |
江上 喜幸 北海道大学, 工学研究院, 助教 (20397631)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | スピントロニクス / 原子層 / 原子鎖 |
研究実績の概要 |
(1) DNAやオリゴペプチドなどの様々な螺旋状有機分子において観測されているスピン選択性に対する共通の機構を解明することを目的として、螺旋状原子鎖の電流誘起スピン偏極や電流誘起軌道角運動量偏極をこれまで計算してきた。今年度は、電子の運動の向きによって電子スピンの向きが決まるというスピン・速度ロッキング [K.Michaeli and R.Naaman, J. Phys. Chem. C 123, 17043 (2019)] から着想を得て、先行研究で用いられた連続体モデルだけでなく原子鎖においてもスピン・速度ロッキングが生じることを示した。また、さまざまな形状の螺旋に対する計算を行うことで、ロッキングには螺旋の曲率と捩率の両方が必須であることを突き止めた。このロッキングを利用することによりスピンフィルター効率がほぼ100%に達するため、磁気抵抗メモリ(MRAM)の磁化スイッチングの効率の向上につながることが期待される。 (2) 磁性不純物による磁化と半導体中の電子との間に働く交換相互作用がk・p項による伝導帯・価電子帯間の電子遷移を通してスピンと軌道運動の結合をもたらす一般的な機構を提案し、強磁性半導体InFeAsにおいて相対論的スピン軌道相互作用より格段に大きい結合が得られることを示した。この交換相互作用によるスピンと軌道の間の結合は磁化反転の効率向上に役立つことが期待される。 (3) 外因性スピンホール効果のskew散乱機構により逆向きのスピン流が生じる2つの量子井戸からなる二重量子井戸の面内に交流電場を印加した場合の反平行スピンホール流を計算し、交流電場の振動数が井戸間の電子のトンネル遷移の振動数に一致することによる共鳴ピークを見出した。この結果は交流電場の振動数を変えることによりスピン流を電気的に制御する可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
様々な螺旋状有機分子において観測されているスピン選択性に対する共通の機構として先行研究 [K.Michaeli and R.Naaman, J. Phys. Chem. C 123, 17043 (2019)] で提案された「電子の運動の向きによって電子スピンの向きが決まる」というスピン・速度ロッキングが先行研究で用いられた連続体モデルだけでなく原子鎖においても生じることが明らかになり、また、螺旋の曲率と捩率の広い範囲においてロッキングが生じることも明らかになり、その普遍性を示すところまで到達したことが理由である。
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今後の研究の推進方策 |
物理学の基本概念として、また反強磁性スピントロニクス実用化への期待から、多方面の研究者の注目を集め物性物理学の中の一つの研究分野に発展しつつある「局所的空間反転対称性の破れ」によって生じる局所的電流誘起スピン偏極の大きさが何によって決まっているのかという基本的な問いへの答えを目指すことが本研究課題の目的である。本研究では、この「決定要素」として空間反転対称性が破れている原子における電子経路の折れ曲がりに着目して、原子内に誘起されるスピン偏極の大きさが経路の形状にどのように依存するかを解明する。特にこれまでの研究で明らかになった、螺旋状原子鎖における局所的電流誘起スピン偏極やスピン・速度ロッキングの曲率・捩率依存性をもとに、螺旋状原子鎖および原子層系におけるスピン偏極およびスピン流生成の効率向上の指針を提案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大のため国内外の学会や会議がオンライン開催に変更になり、支出予定の旅費が未使用となったことが理由である。次年度使用額は次年度に現地開催予定の日本物理学会や国際会議の参加登録費、旅費として使用する計画である。
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