研究実績の概要 |
(1) DNAやオリゴペプチドなどの様々な螺旋状有機分子において観測されているスピン選択性に対する共通の機構を解明することを目的として、螺旋状原子鎖の電流誘起スピン偏極や電流誘起軌道角運動量偏極を理論的に研究した。また、電子の運動の向きによって電子スピンの向きが決まるというスピン・速度ロッキング [K.Michaeli and R.Naaman, J. Phys. Chem. C 123, 17043 (2019)] から着想を得て、先行研究で用いられた連続体モデルだけでなく原子鎖においてもスピン・速度ロッキングが生じることを示した。さらに、さまざまな形状の螺旋に対する計算を行うことで、ロッキングには螺旋の曲率と捩率の両方が必須であることを突き止めた。このロッキングを利用することによりスピンフィルター効率がほぼ100%に達するため、磁気抵抗メモリ(MRAM)の磁化スイッチングの効率の向上につながることが期待される。 (2) 外因性スピンホール効果のskew散乱機構により逆向きのスピン流が生じる2つの量子井戸からなる二重量子井戸の面内に交流電場を印加した場合の反平行スピンホール流を計算し、交流電場の振動数が井戸間の電子のトンネル遷移の振動数に一致することによる共鳴ピークを見出した。この結果は交流電場の振動数を変えることによりスピン流を電気的に制御する可能性を示唆している。 (3) 半導体中の伝導電子と磁性不純物による磁化との間に働く交換相互作用がk・p項による伝導帯・価電子帯間の電子遷移を通してスピンと軌道運動の結合をもたらす一般的な機構を提案し、強磁性半導体InFeAsにおいて相対論的スピン軌道相互作用より格段に大きい結合が得られることを示した。この交換相互作用によるスピンと軌道の間の結合は磁化反転の効率向上に役立つことが期待される。
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