研究課題/領域番号 |
21K03415
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
阪野 塁 東京大学, 物性研究所, 助教 (00625022)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 量子多体効果 / 局所フェルミ流体 / 量子ドット / 近藤効果 / 輸送現象 / 量子干渉効果 |
研究実績の概要 |
極低温で量子多体効果の起こっているカーボンナノチューブで作成された量子ドットの電流特性を、実験グループと協力し明らかにした。特に量子ドットに局所フェルミ流体状態が形成されるときの、電流のバイアス電圧に対する非線形特性も注目した。その結果、磁場やドット準位の変動に対する応答中に、既存の局所フェルミ流体論を超えた、フェルミ流体補正効果の実験観測において初めて成功した。フェルミ流体補正項は3体相関の寄与によって記述されることが理論的に明らかになっていて、この実験では既存の2体までの相関で記述されるフェルミ流体を超えて、より多くの電子による相関状態の観測に成功したことを意味する。 また、2つの電極に繋がれた量子ドットのバイアス電圧の非線形までの電流応答を理論的に明らかにした。特に、2つの電極と量子ドットの結合の非対称性の電流への影響を明らかにした。非対称性として、左右のリードとドットの電子の混成と、左右の電極への電圧の印加の2つに注目し微視的理論により調べた。その結果、電流のバイアス電圧の2次の応答に準粒子相互作用によるハートリー項と、3次の応答で3体相関による効果が増幅されることがわかった。さらに、磁場応答やドットの準位の変動変動に対するケルディッシュ形式に基づいた微視的理論を構築した。その結果、ケルディッシュ形式のグリーン関数の低エネルギーで、周波数、温度、バイアス電圧の2次までの厳密な表式を導出することに成功した。これらの理論研究により、多体効果により低エネルギーで形成される量子状態が体系的に明らかになった。 また、リード電極に並列に2つの量子ドットがつながった系の多体効果と量子干渉効果による輸送特性を明らかにした。特に多体効果によって形成された散乱位相の測定のための実験と比較するため、複数のリード電極を用意し、電流測定に与える影響を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フェルミ流体補正を含む局所フェルミ流体論のついての微視的理論の構築や、電流に対する電極とドットの結合についての非対称性の効果の理解が進み、フェルミ流体補正項の持つ普遍特性の解析手法による解明にむけて大幅に前進している。特にフェルミ流体補正の研究では実験と理論の両輪で研究をすすめることができた。また、厳密解や数値繰り込み群を利用したフェルミ流体補正の特性についての解析も進展していて、学会発表も行っている。またこれらの結果は、粒子正孔対称や時間反転対称性を持たない系の量子多体効果による量子もつれ状態を解析するための基礎ともなっている。 また、特異的フェルミ流体の現れる並列2重量子ドットの輸送特性についても、相転移前のフェルミ流体領域での理論解析を用いて量子干渉効果と多体効果の競合によって形成される電流特性を明らかにすることができた。これにより特異的フェルミ流体領域での輸送を理解にするための、基礎的な輸送特性についての理解が進んだ。 以上により、本研究課題は概ね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
局所フェルミ流体の普遍的性質を調べる上で、多体効果のエネルギースケールである近藤温度の大きさを見積もることは、非常に重要である。局所フェルミ流体特性について実験・理論の両面から研究を進めた結果、実験データから近藤温度を決めるための新しい手法として、輸送量の任意の磁場に対する応答を用いることに気がついた。この手法を理論的に整理し、実験データに適用しその有効性を確かめる研究を発展させている。フェルミ流体補正特性の普遍特性については、Bethe解を利用することで解析的表現を導出する。また、2つの電極の結合の非対称な場合の電流特性の解析を、多端子系に拡張子、輸送の非線形主要項に寄与するハートリー項を準粒子描像での散乱の解析手法を用いて整理する。そして、計数統計を利用することで多端子間の量子縺れ状態の形成と、輸送を介した観測に与える影響を詳しく明らかにする。 また、特異的フェルミ流体状態による輸送現象への影響の解析と、形成される準粒子状態の解析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、日本国外で開催される国際会議が中止になったり、また現地への渡航を断念したため、国際会議への参加費と旅費が未使用となった。また学会発表時に使用する予定であったノート型パソコンの購入を延期した。以上が次年度使用額が発生した理由である。 2022年度に国際会議へ参加し、旅費、参加費と講演用ノート型パソコンに予算を使用する。
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