研究課題/領域番号 |
21K03423
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
近藤 康 近畿大学, 理工学部, 教授 (40330229)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 開放系 / 孤立系 / NMR量子コンピュータ / 分子 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、開放系の理解を実験的に進めることである。そのために、溶液中の個々の分子の核スピン系を開放系のモデルとして用い、NMR量子コンピュータで培われた実験技術によって、そのスピン系のダイナミクスを調べている。解法系のモデル研究としては、①よく制御された環境の中の開放系を調べる方法と②擬似的な孤立系の中に研究対象となるスピン(疑似開放系)とその(疑似)環境を構成する方法を提案した。 令和3年度には、②の方法による実験を行った。その際、開放系のモデルとなる分子として、シリコン原子(対象となる疑似開放系とみなす)が中心にあり様々な側鎖(疑似環境とみなす)を持つ多種類のシリコン化合物を用いた。スピン1/2の原子核をもつシリコン原子の自然存在比は25%程度であり、NMR量子コンピュータで培われた実験技術によって容易に測定することが可能である。また、13C化合物を用いる必要がないので、様々な側鎖(疑似環境)をもつ多種類のシリコン化合物を膨大な市販の試薬リストから選ぶことができる。そのおかげで、様々な環境(実験した分子は10種類以上)における開放系の振る舞いを実験的に調べることができた。 以上は、市販の化学分析用の高分解能NMR装置を用いた実験である。これらの実験と相補的な実験として、回転波近似(NMRでは、永年近似)が適用できない低磁場における複雑なハミルトニアン(環境)における実験も提案している。そのためのNMR装置の開発も進めた。NMR実験に必要な均一な磁場を生成する装置を作るためには、その磁場分布を測定する必要がある。令和3年度には、磁場分布測定装置を作成することができた。令和4年度には、NMRを行うことができる均一度をもつ磁場発生装置の開発を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では開放系の理解を実験的に進めるために、A 市販の化学分析用の高分解能NMR装置を用いた研究と B それを補う自作の低磁場NMR装置を用いた研究を提案した。 「研究実績の概要」に記したように、A については既に実験が行われ、複雑な(疑似)環境の下では緩和現象をよくシミュレートできるという結果が得られており、論文執筆を始めている。したがって、「おおむね順調に進展している」と判断することができる。B については、開発する低磁場NMR装置のもっとも重要な構成要素である磁場発生装置を評価する準備ができた。したがって、「おおむね順調に進展している」と判断することができる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では開放系の理解を実験的に進めるために、A 市販の化学分析用の高分解能NMR装置を用いた研究とB それを補う自作の低磁場NMR装置を用いた研究を提案した。 A については、実験データが得られたので論文執筆を始めているが、理論的な理解がまだ不十分である。その理解を深めるために、過去に出版した論文の理論を拡張する予定である。この拡張によって、理解ができると期待している。 B については、まず磁場発生装置の開発を進める。令和4年度末までの完成を目指す。NMR装置を構成するために必要な電子回路とプログラムも令和4年度に開発する。実験は、最終年度に実施できると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染拡大のために、日本物理学会などがオンライン開催になり、出張できなかったことと講演のために学外から講師を招聘することができなかったことが大きな理由である。また、磁場分布測定装置の開発のために必要と考えていた物品が、すでに保有していた物品で賄えた点も大きい。 コロナ感染も収まりつつあり、海外への渡航が認められつつあるので、海外出張を行う費用に充当したいと考えている。
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