研究実績の概要 |
前年度までに開発したSCP+B法を基礎にハライドペロブスカイトCsBX3(B=Sn,Pb;X=Cl,Br,I)の格子熱伝導率計算を系統的に行った。正方晶CsPbBr3に対しては、3フォノン散乱と熱流演算子の非対角成分を考慮するWigner輸送理論を組み合わせる方法で実験結果を定量的に説明可能とする第一原理計算の報告例があった。一方、中性子散乱実験による音響フォノン線幅を説明するには、3フォノン散乱過程では不十分であり、高次の4フォノン散乱過程が必要であるという知見が前年度までに得られていた。そこで本年度は、4フォノン散乱過程の熱伝導率への影響を定量的に解析した。
4フォノン散乱確率の計算はコストが非常に高く、密な逆空間サンプリングが難しい。一方、熱伝導率を収束させるには比較的密なサンプリングが必要である。これらを両立するため、4フォノン散乱確率を相対的に粗いk点メッシュで実行し、それをtrillinear interpolationを用いて密なk点メッシュに補間する対策を行った。立方晶構造に対して熱伝導率を計算したところ、400-500 K付近で0.2-0.3 W/mKと実験値を過小評価する結果になった。ハライドペロブスカイトでは非調和性が極めて強いため、フォノンの準粒子描像に基づくWigner理論が破綻している可能性が高い。熱伝導率の定量性を改善するには、自己エネルギーの振動数依存性まで考慮した熱輸送理論を用いる必要があるという結論に至った。
研究期間全体では、3次、4次非調和性を考慮した新しいフォノン分散計算手法の開発、自己無撞着フォノン理論を用いた有限温度構造最適化法の開発とその応用、非調和性が強い材料の複素誘電率の精密計算、4フォノン散乱過程のフォノン線幅と熱伝導率への影響の解明などの成果が得られた。開発した計算手法はALAMODEの新機能として公開済みである。
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