研究課題/領域番号 |
21K03426
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
前橋 英明 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任研究員 (30361661)
|
研究分担者 |
藤山 茂樹 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (00342634)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | ディラック電子系 / 電磁双対性 / 分子性固体 / 誘電率 / 輸送現象 / 熱電効果 |
研究実績の概要 |
研究代表者(前橋)は、ディラック電子系関連物質における異常物性、特に(1)ねじれた二層グラフェンにおけるプランキアン抵抗と呼ばれる温度に比例する抵抗と(2)ワイル半金属におけるウィーデマン・フランツ則の破れと関連して、輸送現象と熱電効果に対するクーロン斥力の影響を理論的に調べた。また、研究分担者(藤山)は、(3)α-(BETS)2I3におけるクーロン斥力の影響を調べるために誘電率の測定を行った。 (1)ねじれた二層グラフェンではループカレント秩序と呼ばれる時間反転と空間反転に対して符号を変える新規な秩序が生じている可能性が理論的に示唆されており、その量子臨界点近傍の物性は量子xyモデルのトポロジカルな揺らぎによって散乱されるフェルミオンのモデルによって記述される。このモデルに基づき久保公式を正確に解くことにより、電気抵抗が温度に比例することを示すとともに、熱伝導度は温度に依存しない定数となり、ゼーベック係数は温度に対数的に依存する質量増強因子をもつことを明らかにした。 (2)ワイル半金属におけるウィーデマン・フランツ則の破れは、半金属特有の電子ホール散乱に起因することが指摘されている。そこで、電子ホール散乱が支配的である半金属のボルツマン方程式を変分法を用いて系統的に解くことにより、そのローレンツ比とゼーベック係数を求めた。その結果、電子数とホール数が異なる非補償半金属では熱電性能が著しく向上する可能性があることを見出した。 (3)α-(BETS)2I3の電気抵抗は50K以下で半導体的な温度依存性をもち、電荷秩序相転移の可能性が指摘されている。しかし、誘電率の測定結果は面間方向の電気抵抗とほぼ同じ振る舞いを示し50K付近でなんら異常は観測されなかった。このため、クーロン反発に伴う電荷秩序相転移の可能性は排除された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究成果により、常圧バルクの二次元有機ディラック電子系α-(BETS)2I3が軌道磁化率と電気伝導度の電磁双対性をもつことを明らかにしたが、電気伝導度が半導体的クロスオーバーを示す低温で軌道磁化率の振る舞いに理論と実験の不一致が見られた。そこではなんらかの秩序状態が実現している可能性があるが、その特定は一筋縄ではいかない困難な問題である。そこで本年度はまず、誘電率の測定によって電荷秩序の可能性を排除した。また、非常に興味深い可能性としてループカレント秩序を考え、その量子臨界点近傍で期待される物性を明らかにした。その他ねじれた二層グラフェンやワイル半金属などのディラック電子系関連物質へも対象を広げ、研究計画で述べた熱電・熱磁気効果の研究も行った。このような理由で、おおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続きループカレント秩序など新規な秩序状態の可能性を追求し、熱電・熱磁気効果などの理論的研究も進める。また、α-(BETS)2I3の圧力印加状態でのNMRを行い、この物質のディラック電子系の電子相関を制御した状態での磁性の変化を研究する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響で予定していた旅費が不要になったため次年度使用額が生じた。次年度使用額は旅費や必要なソフト購入等に使用する予定である。
|