研究課題/領域番号 |
21K03428
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
丹治 はるか 電気通信大学, レーザー新世代研究センター, 准教授 (40638631)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 単一光子 / 光共振器 / リュードベリ原子 / 冷却原子 / 量子光学 |
研究実績の概要 |
近年発展が目覚ましい量子情報や量子計測などの量子技術においては、量子もつれ状態や光子数状態などの量子力学的に特異な性質を持つ光(量子的な光)が重要な役割を担う。そして、このような量子的な光と物質のコヒーレントな相互作用により、光の量子状態の保存や量子的な光同士の非線形な相互作用も実現するなど、量子技術の応用の幅が大きく広がる。 最近、気体中性原子系は実用的な物質量子系として改めて脚光を浴びつつある。このような中で、原子系を用いた量子基盤技術をさらに発展させるために、原子系に適合する量子的な光の高度な生成・制御技術の必要性が増している。そこで、本研究では、高励起状態であるリュードベリ状態に集団的に励起された原子からの光の放射の増強と、光の放出の光共振器による増強効果を併用することで、高純度かつ高い同一性を備えた、原子系に適合する単一光子の高効率な生成を目指す。 本研究においては、単一光子を高効率で単一空間モードに取り出すために、光共振器が重要な役割を果たす。令和3年度には、まず光共振器用ミラーの特性評価を行った。高反射率かつ低散乱ロスミラーについては特性評価を完了するとともに、中程度の反射率かつ低散乱ロスのミラーについては、新たに理論計算を行い、散乱ロスについて得られる測定精度について検討するとともに、実際に散乱ロスの評価を行った。また、光共振器安定化用の機構の構築を進めた。一方、原子のリュードベリ状態を生成するための光源については、周波数安定化に向けて誤差信号の生成を行い、安定化の目途が立った。そして、リュードベリ集団励起状態の生成に向けて、冷却原子集団の作製のための光源の整備を行い、適切なレーザー周波数における安定化を行うとともに、必要なレーザーパワーが得られることを確認した。また、原子の冷却のための光学系の作製と冷却された原子集団の位置を制御するための機構の構築を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光共振器用ミラーの特性評価については、高反射率低散乱ロスミラーについて特性評価を完了した。一方、中程度の反射率かつ低散乱ロスミラーについては、評価方法が確立していなかったため、新たに理論計算を行い、散乱ロスの測定精度について検討した。さらに、実際に、当該ミラーを用いた光共振器を構築し、その透過率および反射率を測定することによって、ミラーの散乱ロスおよび透過率を評価した。その結果、ミラーの仕様から想定される散乱ロスの値よりも大幅に大きな値が得られたため、今後はその原因を究明し、改善を試みる。また、ミラーの特性評価と並行して、光共振器安定化用機構の構築も進めた。 光子の単一性を確保するための原子のリュードベリ状態の生成に関しては、リュードベリ励起用のレーザー光の周波数安定化に向けて、電磁場誘起透明化を利用した誤差信号の生成を行い、レーザー周波数の安定化の目途が立った。 また、リュードベリ集団励起状態の生成に向けて、レーザー冷却された原子集団の生成のための光源の整備を行い、適切なレーザー周波数における安定化を行うとともに、レーザー冷却に必要なレーザーパワーが得られることを確認した。さらに、レーザー冷却のための光学系と、原子集団の位置制御のための磁場制御機構を作製し、冷却原子集団の作製の目途が立った。 以上のことから、単一光子の高効率な生成に必要なすべての要素技術の開発が着実に進展しているため、本研究課題はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まず、中程度の反射率かつ低散乱ロスのミラーについて、散乱ロスの測定結果が想定より大きかった原因の究明を行い、その改善に向けた方策を検討する。ミラーの特性評価が完了した後、光共振器を超高真空用のマウントに設置した上で真空チャンバーに導入する。さらに、光共振器の共振周波数を原子の遷移周波数に対して安定化させる際に、安定化用の光が単一光子発生に用いる共振器中の原子(87Rb、共鳴波長780 nm)に影響を与えないよう、別の原子(39K、波長766.7 nm)を安定化の周波数基準とする、新たに考案した手法を用い、その有効性を検証する。 また、共振器中での原子集団の捕捉を行う。その際には、準備が完了した光源および補正磁場の制御機構を用いた磁気光学トラップ、共振器モード内の一次元光格子および共振器に垂直な双極子トラップ(共に波長860 nm)を併用する。 さらに、これまでに見積った、現状の装置において光共振器中での単一光子発生確率が理論上99%を超えるために必要な原子密度を目標として、原子を冷却し捕捉するための各種パラメータの最適化を行う。 続いて、安定化を完了させた二種類の光源(波長780 nm と480 nm)を用いて87Rbのリュードベリ状態への二光子励起のラビ振動を観測し、その周波数からπパルスの時間幅を決定する。さらに、このπパルスによりリュードベリ励起を行い、脱励起の際に放出される光子の統計性から、励起の単一性を確認する。また、光子の検出確率から、共振器中での超放射が起きていることを確認する。以上により、リュードベリ集団励起状態からの超放射と光共振器のパーセル効果を併用した単一光子発生を実現させ、さらにその高効率化を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
光共振器安定化用の機構に用いる予定だった電気光学変調器について、当初予定していた、ファイバー結合型のものではなく、空間結合型のもので実現可能であることが明らかになったため、その差額により次年度使用額が生じた。
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