電荷秩序をもった希土類鉄酸化物の電子線誘起フェイゾンを主に走査透過型電子顕微鏡法(STEM)を用いた実空間観察により理解し、その起因と励起機構を明らかにすることを目的として研究を行った。さらにフェイゾンを介した物性制御の可能性を探求するために電子顕微鏡によるその場計測・観察を行った。 Yb2Fe3O4の良質な単結晶試料を酸素分圧を制御した浮遊帯域溶融法により合成し、得られた試料に対して、高速STEM観察によるフェイゾンの観測を行った。また、同時に電子エネルギー損失分光測定を行うことにより、電荷秩序状態のフェイゾンへの影響ついて情報を得た。また、収束電子線回折(CBED)法においてもフェイゾンによるものと考えられる動的挙動を確認した。これは高い時間分解能でフェイゾンに関する定量的データを取得することができる可能性を示唆している。 Yb2Fe3O4の電子線誘起フェイゾンの基準となる変調構造について、詳細な構造解析を行った。加えて、変調構造と組成の不定比性の関係について電子回折法を用いて調べた結果、特に酸素欠損については変調構造の発達を阻害することが分かった。 Yb2Fe3O7の関連化合物であるYbFe2O4について、電子線誘起フェイゾンを観測することができた。我々が用いたYbFe2O4は平均的には非極性構造をもつと考えられたが、フェイゾン発生時、局所的に分極構造が形成された。 電子線誘起フェイゾンを介した構造制御を電子線照射下で電場印加により試みた。FIB加工により試料を作製、STMプローブを電極に用いた特殊ホルダーにより、電場印加そのば高分解能TEM像の観察およびIVカーブの同時測定に成功した。しかしながら、試料と電極プローブとの接触抵抗と、電場による電荷秩序融解時の過剰電流による試料破壊が問題となり、構造制御には試料作製や電気回路について対策が必要であることが分かった。
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