研究課題/領域番号 |
21K03435
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
長谷川 尊之 大阪工業大学, 工学部, 講師 (00533184)
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研究分担者 |
金 大貴 大阪公立大学, 大学院工学研究科, 教授 (00295685)
小島 磨 千葉工業大学, 工学部, 教授 (00415845)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 光励起過渡現象 / テラヘルツ波 / 表面電場 / 半導体 / 超高速分光 |
研究実績の概要 |
本研究は半導体結晶における電子系・格子系の超高速光励起過渡現象を表面電場の観点から探究し、過渡現象の本質解明と制御を目的としている。2022年度の主な研究成果は以下の通りである。 表面電場を有するGaAs多層膜構造を対象として、パルス励起したキャリアにより表面電場強度を動的に制御(遮蔽)する方法の開発に取り組んだ。約0.1 nJの制御用パルスを照射した条件において、表面電場強度は約40%まで低下すると見積もられた。また、制御用パルスの強度を変化させることで、その低下量を連続的に制御できることも示した。以上の電場制御性は、過渡現象の研究に適用可能なものである。さらに、制御用パルスの照射タイミングを系統的に変化させた実験から、表面電場強度は約1 psで準安定状態に達することが明らかとなった。この電場変化の時間スケールは過渡現象ダイナミクスのものと同程度であることから、本手法は動的な電場制御という観点で過渡現象の新たな研究展開に結びつくものと期待される。 InPにおけるテラヘルツ波放射機構についての研究を行った。ドーピングの種類や濃度の異なる3種類のInP基板を対象にテラヘルツ波時間波形を測定し、それらの位相関係から各試料の表面バンドベンディングの向きを推定した。次に、テラヘルツ波時間波形の励起光強度依存性を測定し、フーリエ変換パワースペクトルに基づいて解析した。その結果、試料間でテラヘルツ波放射応答に差異があることが示された。GaAs多層膜構造との比較考察から、テラヘルツ波放射に寄与する過渡現象が各試料で異なり、それが差異の要因であることを明らかにした。以上の知見は、表面電場と過渡現象との関係性についての理解を深めるものである。 GaAs/AlAs量子井戸構造における励起子系の過渡現象についての研究を行った。試料の内部電場や励起光条件を制御した実験から、新規なダイナミクスを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に引き続きパルス励起したキャリアによって電場強度を動的に制御する方法を検討した。本手法の実用性および過渡現象ダイナミクスに関する様々な知見を得たため、その一部は論文で発表した。また、本手法の課題が挙がったことから、それを解決するための改良案を検討して2023年度の実施に向けての準備を進めてきた。 上記と並行して、InPを対象とした研究を展開した。GaAsでは、キャリア輸送、プラズモン、フォノンなど様々な過渡現象が関与したテラヘルツ波放射が報告されているのに対して、InPではキャリア輸送以外の報告例は限られていた。GaAs多層膜構造を対象としたこれまでの研究から、過渡現象の励起は表面電場に強く依存することが明らかとなっている。そこで、表面電場の異なる複数のInP基板を用意して調査を行った。InP試料のテラヘルツ波放射強度は比較的微弱なことから、光学系の一部を改良して測定時のノイズを低減させることにも努めた。現在までに、表面電場に依存して、様々な過渡現象がテラヘルツ波放射に寄与するという結果を得ている。 試料表面の加工により表面電場を制御する方法について検討を続けた。特に、加工による物性の変化に焦点を置き、テラヘルツ分光や光電子分光を用いた多面的な調査を行った。また、次年度に向けて量子ビートに関する研究を推進した。電場を印加したGaAs/AlAs超格子において、異種の量子ビートが共存する電場領域でのダイナミクスを調査した。さらに、GaAsP薄膜上のGaAs/AlAs多重量子井戸において、量子ビートの発生条件下で観測される超高速緩和応答を光パルスペア励起により調査した。 以上のように、様々な知見が継続的に得られており、課題解決に向けての取り組みも並行して進めている。この状況を踏まえ、現在までの進捗状況は「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
表面電場制御法を駆使して、InPのテラヘルツ波放射機構やテラヘルツ領域量子ビートについての研究テーマを中心に推進していく。並行して、「現在までの進捗状況」で述べた表面電場制御法の改良を実施する。その他の制御法の開発と改良についても継続的に取り組み、さまざまな研究テーマへの応用可能性を検討する。以上の研究活動で得られた知見を集約して、表面電場と過渡現象との関係性を包括的に明らかにし、得られた成果は論文や学会発表等で積極的に発信していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
未使用額は査読付き論文の掲載料と成果発表の旅費として確保していたものである。同じ使途で次年度に使用する予定である。
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