研究課題
近年の研究代表者らの研究により、代表的有機導体、κ-型BEDT-TTF (ET) 塩の反強磁性相には、実は、一次相転移の相境界が新たに存在することが明らかになった。この相転移は、半分の分子層内のスピンが180度反転し、面間方向のスピン配列が強磁性的配列から反強磁性的配列へと変化する特異なものである。また、この性質を利用したスピン流検出の方法が理論的に提案されている。しかし、相境界がどこにあるか、さらには相境界近傍での物性はどうなるかについては全く解明されていなかった。そこで、本研究では、ET分子の重水素化とアニオンの部分置換(ClサイトのBr置換)を組み合わせた精密な化学圧力制御を実行し、そこでの磁性の解明を目指した。結果として、約50パーセントのBr置換までは、Br型の磁気構造を持つことが判明し、相境界をある程度しぼることに成功した。最終年度には、磁場方位を正確に定めつつ行った精密な磁化測定からゼロ磁場帯磁率の抽出に成功した。磁化率が強磁性的な振る舞いを示すことを示唆する結果が得られており、傾角反強磁性体の新たな側面を浮き彫りにした可能性がある。また、この磁気構造に関する微視的な理論研究との共同研究も展開され、我々の主張を支持する結果も得られた。また、近年、上記の系を含む種々のダイマー型ET塩で誘電率の異常が観測され、この現象がETダイマー内での電荷分離による電子型誘電体の発現であるとして注目されている。本研究では、この現象の新たな研究手法として、核四重極共鳴 (NQR) と、ET分子の部分Se置換を提案した。まず、ETのSe置換については、最終年度にもいくつかの塩の合成に成功し、研究を展開した。また、NQR法についても、複数のET塩での展開に成功しており、二種類の同位体核種でのNQRを比較することにより、電荷秩序や電荷ゆらぎの情報を得る方法論が構築されつつある。
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