研究実績の概要 |
本研究では化学組成が同じで結晶構造が異なる相が複数存在する磁性体を多形磁性体と呼ぶ。また、多形の定義を拡張し、化学圧力による相変化も多形の現象と見なす。このように拡張した多形磁性体で生じている相変化の機構を解明することにより、機能性材料としての新規多形磁性体の創製を目指す。 多形鉱物Al2SiO5と同じ化学組成の磁性体 A2BO5(A=Al,V,Cr,Fe,Ga、B=Si,Ge)では化学圧力による相変化が実現していることから、A2BO5 に対する研究は(1)多形磁性体における相制御の機構解明と新規多形磁性体の創製、(2)新規多形磁性体における磁気応答機能の探索、という点に学術的独自性・創造性がある。そこで本研究ではカイヤナイト構造、アンダルサイト構造、シリマナイト構造を取りうる A2BO5 を系統的に研究して相制御の機構を解明することにより新たな多形磁性体を創製し、巨大磁歪などの磁気応答機能を探索する。 本年度は良質なカイヤナイト構造の Fe2GeO5 試料の合成に成功した。不純物が存在しない試料に対する、磁化、比熱測定により、19 K 付近で弱強磁性状態に転移することが分かった。しかし、それよりも高温領域において短距離相関が存在することを示唆する比熱の異常が観測された。今後、格子比熱を正しく評価して磁気比熱を求めるために、さらに高温までの比熱測定を行う。また、磁場に対する磁気応答を明らかにするために磁場中比熱の測定を行う。さらに、良質試料の合成が可能となったことから、今後、中性子散乱実験により、磁気構造及び相変化の機構の解明が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに Fe2GO5 はカイヤナイト構造のみ合成に成功しているため、Fe2GO5 が多形物質である可能性が低い。今後の多形物質の探索の指針を得るために、この物質が多形磁性体となり得なかった原因を詳細に解明するために、引き続き、比熱、磁化測定を行う。また、磁気構造を明らかにするために中性子散乱実験やメスバウアー効果の実験を行う。 これまでの研究から、V2GeO5 の磁性については分子軌道モデル、(Cr,V)2GeO5 の磁性については double exchange モデルの導入により説明が可能と考えているが、これらのモデルの妥当性を示すために、さらに詳細な磁化・比熱測定を行う。 多形磁性体を示す(Al,Fe)2GeO5では2種類以上の構造が共存する試料も合成可能である。共存状態の試料は、準安定状態にあるために低磁場で容易に相変化できる「やわらかさ」を備えている可能性がある。そこで、共存領域の試料に対して磁気応答機能の評価を行う。
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