研究課題/領域番号 |
21K03442
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
松林 和幸 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (10451890)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 高圧力 / 熱電特性 / 量子臨界 / 熱測定 / 超伝導 / 磁性 / 多極子 |
研究実績の概要 |
本研究では希土類元素を内包したかご状構造をとる1-2-20系物質に対して、多重極限環境下(高圧力・高磁場・極低温)における物性測定技術を駆使することにより、スピンや軌道、価数自由度のゆらぎによって生じる新奇な量子相や超伝導相の解明を目指している。具体的な研究対象物質の1つである四極子秩序を示すPrV2Al20においては、高圧力下で発現する超伝導に関する試料依存性が問題となっていたが、同一試料での電気抵抗、交流磁化率の同時測定を行うことにより、圧力相図の作成と超伝導バルク性の検証を行った。その結果、反強四極子秩序が低温へと抑制され、超伝導発現によるゼロ抵抗を示す圧力領域においても、交流磁化率測定における反磁性シグナルが観測されないことがわかった。興味深いことに、これと類似した振る舞いは、反強磁性量子臨界点近傍で重い電子超伝導を示す典型物質であるCeRhIn5でも報告されているが、同物質では反強磁性が完全に消失した領域ではバルク超伝導となり、明瞭な比熱異常が観測されることがわかっている。PrV2Al20においても同様の観点から、より高い圧力域における研究の必要性が認識された。本年度は当初予定していた研究課題に加えて、Yb系化合物の熱電特性の圧力効果にも着目した研究を展開した。YbRh2Zn20の純良単結晶試料においては、従来の報告よりも高い熱電性能指数を示すことを見出していたが、さらに電気抵抗および熱電能の圧力効果について調べたところ、この系を特徴づける近藤温度と出力因子の相関が明らかとなった。また、近藤温度の大きさが大きく異なるYbCo2Zn20における実験結果との比較により、幅広いパラメータ領域での系統的な理解につながった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画におけるYb系物質の極低温領域の量子臨界性に着目した研究に加えて、高温域での高い熱電特性に対する圧力効果についても研究を行った。熱電物性の観点から研究された従来のYb系化合物との比較により、Yb1-2-20系物質においては希土類サイトの高い局所対称性のために、低温まで縮重度が大きな状態が維持されることの重要性が実験的に明らかとなった。この点は今後の熱電物質開発における重要な指針となると期待される。また、高圧力下での比熱測定手法の開発については、振幅変調法による測定にも取り組んだことで、従来よりも高い周波数領域での実験精度を向上させることに成功した。熱電能測定に関しても室温から極低温域に至るまでの測定配線の改善に取り組んだため、YbおよびPr系1-2-20物質の量子臨界性を研究するためのよりよい実験環境を整備することができた。以上のことから、研究目標の達成に向けておおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、これまでに立ち上げと改良を進めてきた熱的測定手法を駆使することで、YbおよびPr系1-2-20物質の量子臨界点近傍で発達する量子ゆらぎや超伝導特性に関する研究を推進する。Yb系1-2-20物質については特性温度が異なる物質における圧力効果の比較に加えて、磁場印加した際に生じるメタ磁性に着目して実験を進める。また、Pr系1-2-20物質については、高圧力下での超伝導特性と四極子近藤格子の特徴を精密な温度・磁場依存性から明らかにする。また最終年度となるため、学会および研究会に積極的に参加することに加えて、得られた成果を論文としてまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度配分額に加えて、初年度の繰越金額の半分程度を使用した。新型コロナ感染症の問題が収束しつつある最終年度に積極的に成果発表を行うべく、初年度の繰越金額分の残額を充当することとした。
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