研究課題/領域番号 |
21K03449
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
小林 理気 琉球大学, 理学部, 助教 (40614673)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | スピンダイマー / シャストリーサザーランド格子 / シャストリーサザーランド四面体格子 / スピン液体 / フェルミ液体 / 中性子非弾性散乱 / スピンギャップ / スピングラス |
研究実績の概要 |
本研究ではCe5Si3とCe5Ga2Geが示すスピンダイマー(SD)基底状態に対して微視的な実験からより詳細な解析を行い,またこれら試料の圧力印加実験を行うことで,SD基底状態が圧力に対してどの様な応答を示すのか明らかにすることを目的として研究を行っている.前年度観測されたこれらの試料の磁気散乱の振る舞いの違いを明らかにするために,当該年度は計画の一部を変更し,Ce5Ga2Geの単結晶試料を用いた中性子非弾性散乱実験と,0.3Kまでの極低温磁化測定を行った.実験はJ-PARC/MLFに設置の高分解能チョッパー分光器HRCを利用し,単結晶試料はフラックス法で育成した微小単結晶をアセンブルした物を使用した.その結果,1.Ce5Ga2Geにおいて0.5meVの明確なスピンギャップを観測した.スピンギャップはシャストリーサザーランド格子のダイマー形成方向である[HH0]でより明確に観測された. 2.観測されたスピンギャップはQ=0でゼロになるような成分とQ=0で有限な値を持つような成分の両方が観測されており,このスピンギャップの波数依存性を明らかにするためにはより高分解能での実験が今後必要になるだろう. 3.Ce5Ga2Geの極低温磁化測定ではT=0Kで磁化がゼロになるような通常のダイマー的振る舞いは観測されず,スピン液体やフェルミ液体で観測されるような極低温で磁化が有限の値で一定になる振る舞いが観測された.加えてFieldCoolingとZeroFieldCoolingが一致しないスピングラス的な振る舞いも低温において観測された などの有意義な研究の進展が見られた.最終年度はこれらの結果に加え,より高分解能条件での中性子非弾性散乱実験と極低温磁化測定を行うことで,これらの物質の基底状態を明らかにする.また圧力下でのマクロ物性測定も実施する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度に計画していた実験は全て実施することができた.しかし予想を上回る興味深い実験結果が得られており,今後そちらにフォーカスすることで当初計画から遅れる可能性がある.
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今後の研究の推進方策 |
本研究ではCe5Si3とCe5Ga2Geが示すスピンダイマー(SD)基底状態に対して微視的な実験からより詳細な解析を行い,またこれら試料の圧力印加実験を行うことで,SD基底状態が圧力に対してどの様な応答を示すのか明らかにすることを目的として研究を行っている.当初計画では2年目と3年目は圧力下での実験を中心に進める予定であったが,1年目と2年目の中性子非弾性散乱実験と極低温磁化測定実験において予想を上回る興味深い結果を得ることができたので,計画を一部変更して3年目も継続して中性子非弾性散乱実験と極低温磁化測定実験を実施することを考えている.特に2年目に実施した単結晶試料での中性子非弾性散乱実験では装置のトラブルから高分解能条件での測定を行うことができなかった.そこで3年目には新たに多くの単結晶をアセンブルした試料を用いるか,高分解能での測定が可能な分光器を用いることで観測されたスピンギャップの詳細な波数依存性を明らかにしたい.また,極低温磁化測定では予想に反してスピンダイマーではなく,スピン液体やフェルミ液体的な振る舞いが観測され,スピングラス的な振る舞いも観測された.これらの結果を踏まえ,3年目は極低温領域での磁化測定だけでなく,電気抵抗測定も行う予定である.前年度の3Kまでの電気抵抗測定では電気抵抗が温度に比例するような非フェルミ液体的な振る舞いが観測されている.この振る舞いが0.3Kといった極低温領域まで実現しているか明らかにし,磁化測定で観測されたフェルミ液体的な振る舞いとの関連を明らかにする.また,これらの測定と同時並行で圧力下での電気抵抗測定を中心としたマクロ物性測定の準備も進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定備品の価格などに変更があったため. 繰越額については消耗品費などに利用する予定です.
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