本研究ではCe5Si3とCe5Ga2Geが示すスピンダイマー(SD)基底状態に対して微視的な実験からより詳細な解析を行い,またこれら試料の圧力印加実験を行うことで,SD基底状態が圧力に対してどの様な応答を示すのか明らかにすることを目的として研究を行っている.最終年度で計画していた高分解能条件でのCe5Ga2Geの中性子非弾性散乱実験は使用する分光器のチョッパーが不調のため実施することができなかった.そのため一部計画を変更し,Ce5Si3の単結晶試料を用いた中性子非弾性散乱実験と,極低温中性子回折実験による磁気構造解析を行った.非弾性散乱実験はJ-PARC/MLFに設置の高分解能チョッパー分光器HRCを利用し,試料は微小単結晶をアセンブルしたものを用いた.回折実験はJRR-3に設置の東北大学金属材料研究所が所有する偏極中性子三軸分光器TOPANを利用し,試料は小型単結晶を用いた.その結果, 1.初年度の実験結果から我々が提案していた三重項励起状態の分裂を示唆するシグナルを非弾性散乱実験において観測した.これによりCe5Si3の比熱測定で観測されているSchottky比熱の大きさがSDモデルで定量的に合わない問題が,励起三重項が分裂していることが原因として説明できるかもしれない. 2.先行研究の粉末中性子回折実験では散乱強度の問題から磁気構造を決定するのに十分な磁気散乱ピークを観測することができなかったが,今回の単結晶試料を用いた回折実験では磁気構造を決定するのに十分な数の磁気散乱ピークを観測することができた.これによりCe1サイトの磁気構造決定を通じてCe2サイトが磁気秩序に関与していないことの強い証拠を得ることができるだろう. などの有意義な研究の進展が見られた.今後これらの結果をまとめ,現在既にアクセプトされた論文とは別に論文を2本執筆する予定である.
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