研究課題/領域番号 |
21K03450
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
中井 祐介 兵庫県立大学, 理学研究科, 准教授 (90596842)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 核磁気共鳴 / NMR / Dirac電子 |
研究実績の概要 |
昨年度までの我々のNMR実験から黒リンの半金属相(1.6 GPa)において、ディラックフェルミオンが存在する証拠となるゼロモードランダウ準位がNMR緩和率の磁場依存性に反映されることを明らかにしてきた(今年度その内容が出版された)。この結果は、NMR測定がトポロジカル物質の微視的な特性や挙動についての知見を提供し、その研究に有用であることを示す結果である。そこで、圧力印加に伴って黒リンのディラック半金属相がどのように変化するかを微視的観点から調べるために、半導体・半金属転移点のごく近傍の半金属相においても31P-NMR(核磁気共鳴)測定を行った。低温においてNMR緩和率の磁場依存性測定を14Tまで行い、転移点ごく近傍の半金属相でもディラック電子系特有の振る舞いが見られることを明らかにした。また、緩和率の磁場依存性の結果からディラック半金属相におけるフェルミ速度が圧力によって変化することが分かった。これにより、黒リンのディラック半金属相の電子相関に関する洞察を得ることができた。また、NMR緩和率とは異なる観点から黒リンのディラック半金属相の性質を調べるために単結晶黒リンを用いた圧力下での精密NMRシフト測定を開始した。今年度は微小なNMRシフトを圧力セル内で精密に決定する方法の検討を行い、その実装を完了した。他には、昨年度実験に着手した、印加磁場に依存して特異なトポロジカル物性を示す黒リンの近縁物質において、角度回転機構を用いて磁場印加方向を精密に制御することによって、NMRスペクトルの角度依存性を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
半金属相(1.6 GPa)でゼロモードランダウ準位をNMR実験で初めて観測した結果を論文として出版できた。共同実験施設の装置の故障のため15T以上の磁場で実験を行えていないものの、半導体・半金属近傍の圧力下黒リンにおいて実験室レベルの磁場強度(14T)までのNMR緩和率の測定を行い、ディラック電子系特有の振る舞いを観測することに成功した。この結果をすでに得られている1.6 GPaの結果と比較することで、ディラック半金属相の圧力下での性質について貴重な知見を得ることができると期待している。 他には、NMR緩和率とは異なる観点から黒リンの半金属相の性質を調べるために単結晶黒リンを用いた圧力下での精密NMRシフト測定の検討を行った。具体的には、微小なNMRシフトを精度よく決定するための精密な印加磁場の決定方法を検討し、実装することができたため、来年度に実際に測定を行う計画である。 また、昨年度実験に着手した、印加磁場に依存して特異なトポロジカル物性を示す黒リンの近縁物質において、角度回転機構を用いて磁場印加方向を精密に制御することによって、NMRスペクトルの角度依存性を明らかにすることができた。このデータと今年度末に新たに納入されたスプリット型超伝導磁石とNMR用回転プローブを用いることで実験のさらなる進展が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
共同実験施設の装置の故障のため行うことができていない半導体・半金属ごく近傍の半金属相での強磁場NMR実験を行い、得られたデータをまとめて論文を執筆・投稿する。また、単結晶黒リンを用いて、印加磁場方向と磁場強度を系統的に変えた圧力下NMRシフト測定を低温まで行い、NMR緩和率とは異なる観点からディラック半金属相の性質を調べる。他には、黒リンの類縁物質であり、磁場印加方向が物性に大きな影響を与える磁性トポロジカル物質に対して、新たに納入されたスプリット型超伝導磁石とNMR用回転プローブを用いて印加磁場方向を精密に制御したNMR測定を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
ヘリウムガスの回収率が想定より高く、その結果ヘリウムガスの使用量を抑制することができたのが残額が生じた主な理由である。次年度は高騰が続く寒材費用に充当する計画である。
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