研究課題
長年の低次元量子スピン系物質における熱伝導の研究によって、局在電子スピンが大きな熱を運ぶことがわかってきた。その“スピンが熱を運ぶ現象”を利用した新しい絶縁性高熱伝導材料の開発が期待されている。そのため、(目的Ⅰ)高スピン熱伝導を有する物質を創製すること、そして、(目的Ⅱ)高スピン熱伝導の機構「JSとスピン熱伝導の大きさの関係」を解明することを本研究の目的とした。(目的Ⅰ)La2CuO4を高品質化することによって、過去に報告されているスピン熱伝導を向上させることを目的とした。高純度原料を用いることにより、高品質なLa2CuO4単結晶を育成することに成功した。得られた単結晶試料に対して、様々な条件で還元アニールを施したが、スピン熱伝導の大きさは過去の報告と同程度であった。このことから、La2CuO4における室温付近のスピン熱伝導の値は、不純物散乱ではなく、マグノン-フォノン散乱が支配的である可能性が高いことがわかった。また、室温よりも低温領域においては、スピン熱伝導の値が増加する可能性があることもわかった。(目的Ⅱ)「JSとスピン熱伝導の大きさの関係」の解明のため、同じ結晶構造を持つLaSrMnO4、La2CoO4に注目し、単結晶の育成を行い熱伝導を測定した。今までの実験結果より、LaSrMnO4とLa2CoO4において、スピン熱伝導の寄与が低温で存在する可能性があることがわかっていた。それを確かめるため、大型の単結晶を育成して、熱伝導率の異方性を調べた。その結果、LaSrMnO4とLa2CoO4ともに、低温で熱伝導に大きな異方性があることがわかった。この異方性の原因は、LaSrMnO4とLa2CoO4が低温でスピン熱伝導の寄与を持つためだと結論することができた。
2: おおむね順調に進展している
(目的Ⅰ)La2CuO4を高品質化することによって、過去に報告されているスピン熱伝導を向上させることを目的とした。順調に、高品質な単結晶に対して、様々な条件で還元アニールを施した実験を行うことができた。その結果、La2CuO4におけるスピン熱伝導は、室温付近のスピン熱伝導の値の向上の可能性が低いことがわかったが、それより低温ならば、スピン熱伝導の値の向上の可能性があることがわかった。(目的Ⅱ)「JSとスピン熱伝導の大きさの関係」の解明のため、同じ結晶構造を持つLaSrMnO4、La2CoO4に注目し、単結晶の育成を行い熱伝導を測定した。順調に、LaSrMnO4とLa2CoO4において、大型の単結晶育成に成功し、異方性の測定を行うことができた。その結果、低温でスピン熱伝導の寄与を持つことを明らかにすることができた。以上により、おおむね順調に進展をしていると言える。
(目的Ⅰ)La2CuO4におけるスピン熱伝導は、室温付近のスピン熱伝導の値の向上の可能性が低いことがわかったが、それより低温ならば、スピン熱伝導の値の向上の可能性があることがわかった。低温でのスピン熱伝導の向上のため、より最適な還元アニール条件を探索する計画である。Ar、H2、真空、ガスブレンダーを用いた混合ガス中など、様々な雰囲気下でのアニールを行う予定である。(目的Ⅱ)LaSrMnO4、LaSrFeO4、La2CoO4、La2NiO4において、スピン熱伝導の観測に成功した。このスピン熱伝導の値が最適であるかどうかを、試料に対して様々なアニールを施すことで確かめる予定である。そして、その実験で得られた結果から「JSとスピン熱伝導の大きさの関係」を明らかにする予定である。
(理由)次年度使用額が生じた理由は、今年度の研究を効率的に実行したこと、コロナ禍により学会がオンライン開催になったことによって生じた未使用額である。(使用計画)次年度の請求額と合わせて、物品費として使用する予定である。
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