研究課題/領域番号 |
21K03459
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
星野 晋太郎 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (90748394)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 強相関電子系 / 多軌道系 / フラーレン / 超伝導 / モット絶縁体 |
研究実績の概要 |
アルカリ金属をドープしたフラーレン結晶は軌道自由度を持つ強相関電子系の典型例である。近年、モット絶縁体近傍の金属相において、電子の遍歴・局在性を共に兼ね備えた異常金属状態が存在すること(ヤーン・テラー金属)が報告されている。この系では、1つの分子軌道を電子が2重占有した状態(ダブロン)が重要な役割を果たしており、ダブロンの持つ軌道自由度は通常電子の軌道とは定性的に異なる新奇な物性を示す可能性を秘めている。 フラーレン化合物は分子間の距離を化学置換によって制御することにより、遍歴状態である金属だけでなく局在状態であるモット絶縁体も実現しうる。本研究ではまず、モット絶縁体領域における理論構築に取り組んだ。分子軌道に電子が局在した極限からの摂動論的アプローチを用い、かつ現実的なバンド構造を取り込んだうえで局在有効モデル(Kugel-Khomskiiモデル)を構築した。それを平均場解析することにより、フラーレン系特有のダブロンの軌道秩序を見出し、その熱力学的安定性を議論した。 また、弱相関のアプローチ(エリアシュベルク理論)をフラーレン系に適用した。その際、多軌道系における複雑な相互作用を対称性にもとづいて整理することにより、電子間相互作用や電子・フォノン相互作用を統一的に扱った理論を定式化し、フラーレン系に対する半定量的な議論を行った。その結果、多軌道系特有の相互作用が超伝導状態に及ぼす影響について解析的・数値的に明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画で掲げた、強相関および弱相関からのアプローチに関する研究を1年間で遂行することができた。この研究によって展望も広がっており、構築した多軌道強相関極限ソルバーについては、フラーレン系を超えて様々な多軌道自由度をもつモット絶縁体に適用できる。弱相関極限のアプローチについても、エリアシュベルク理論の単純な適用でなく、複雑な多軌道系の方程式を多極子の概念を用いて見通し良く定式化することに成功している。
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今後の研究の推進方策 |
フラーレン系においてより正確な解析をするために、局在モデルの解析について平均場を超えた解析を行う。さらに、この方法はフラーレン化合物だけにとどまらず、任意のモット絶縁体に対して適用することができるため、一般の局在電子系に対しても適用する方法論を確立することを目指す。生成されたモデルに対して、量子または古典ソルバーを適用し、汎用的に物理量を計算できる枠組みを構築する。 また、フラーレン化合物に対して適用した弱相関アプローチ手法を、他の分子性導体についても適用することを試みる。さらに、弱相関と強相関をつなぐ理論として、ダブロンの自由度を取り込んだ有効平均場理論を構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、2021年度の10月ころに計算機を導入予定であったが、昨今の半導体不足により、想定していた業者からの納品が難しい状況であった。そのため、計算機の導入を2022年度に延期した。研究計画時に予定していた計算機の導入を、2022年度前期に行う予定である。
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