アルカリ金属をドープしたフラーレン結晶は軌道自由度を持つ強相関電子系の典型例である。この物質は体積をコントロールすることにより、金属相からモット絶縁相に変化する。本研究はこのような軌道自由度を持つ強相関電子系の特徴的物性を明らかにすることを目的とする。 金属相では、これまでに電子・フォノン結合を陽に扱い、エリアシュベルク理論を構築した。最近、さらにこの解析を拡張し、任意のスピン・軌道・超伝導状態を記述することに成功した。これにより、様々な秩序状態の可能性や、磁場・歪みといった様々な外場に対する応答を議論できるようになった。この枠組みは一般的に構築してあるので、フォノンだけでなく一般のボゾン(例:フォトン)との結合にも適用可能である。 モット絶縁体領域では、これまでに局在電子の動力学を記述するスピン・軌道モデルを構築し、ダブロンの軌道自由度が生み出す秩序を解析してきた。一方でモット絶縁体にホールをドープした場合には金属化するが、本研究はこのような電子状態を記述するためのモデル(多軌道t-Jモデル)構築にも成功している。 さらに、フラーレンで構築したモット絶縁体の解析枠組みは、スピン軌道相互作用をもつ一般の多軌道モット絶縁体に拡張され、最近では非平衡状態のシミュレーションを可能にする運動方程式の定式化にも成功している。その際、熱浴の自由度も取り入れ、エネルギー減衰や熱浴から及ぼされるノイズの効果も方程式に取り込んでいる。
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