研究課題/領域番号 |
21K03463
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
鈴木 勝 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (20196869)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | He膜 / グラファイト / 水晶マイクロバランス |
研究実績の概要 |
吸着膜のすべり運動は潤滑膜の原子・分子スケールの理解に重要でありナノトライボロジーの研究分野のひとつとして発展している。その中で3He膜と4He膜のすべり運動の研究は,吸着膜のすべり運動の研究で特異な地位を占める。3He膜と4He膜は,ともに揺らぎの大きな低次元の量子物質であり,さらに,ある面密度以上では4He膜は4He膜上部の液相が超流動となる。本研究の目的は,グラファイト基板に吸着した3He膜と4He膜のすべり運動を測定し,すべり運動での量子効果についての知見を得ようとするものである。 令和4年度は,令和3年度に引き続き,5MHzAT-カット水晶振動子および32kHz音叉型水晶振動子での実験を行った。5MHzAT-カット水晶振動子ではグラファイト基板としてグラフォイルを利用し,32kHz音叉型水晶振動子では単結晶を発泡したグラファイトを基板として3He-4He混合膜の力学応答を測定した。単結晶を発泡したグラファイトを基板の実験では,グラファイトの粒径が大きくなる発泡した単結晶を利用することでHe膜のすべる割合が大きくなりHe膜のすべりを高感度に測定が可能となった。 これまでの測定から,3He-4He混合膜の力学応答として次のことが明らかになった。5MHzの実験では,(1)大振幅では3He-4He混合膜はすべり,小振幅で固着する。このとき3Heの面密度が大きくなると固着までの緩和時間が長くなる。これは,固相4He原子が液相4He原子と交換が起こっていることを示唆する。また32kHzの実験では、(1)3He膜は,基板振幅が小さい振幅ではグラファイト基板に固着し,振幅を増加させるすべりが起こり,さらに振幅を増加させると再び固着する。(2)大振幅の固着状態は準安定状態であり,振幅を減少させると,固着状態とすべり状態を2回繰り返して安定状態の固着する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要の記載したように,令和4年度は5MHzAT-カット水晶振動子と32kHz音叉型水晶振動子上のグラファイト基板に吸着した3He-4He混合膜の力学応答を精密な測定を実施し,3He-4He膜の構造が基板振動によりさまざまに変化することを明らかにした。この結果の一部は,学会で報告しており、これにより(2)おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,すべり運動での量子効果についての知見を得ることを目標に,純粋な4He膜と試料として選び,液相膜,不整合固体膜,4/7 整合膜の力学的応答の比較を行う。4He 固体膜4/7 整合相は,低面密度側は液体相,高密度側は不整合固体膜に接する。4/7 整合相が古典的な吸着膜として振舞うならば,これら3相の中で最もピン止めの強さが強く,すべり量が小さなると期待さえる。 その後,4/7 整合膜の温度依存性について測定する。古典的な整合相では低温では吸着原子の熱運動が小なることからピン止めが強くなり,すべり量が減少することが期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度は引き続き、3He-4He膜の力学応答を測定し,興味深い実結果が得られたので実験装置や実験セルなどの変更を行わず実験を継続した。このために次年度への繰り越しが生じた。3He-4He膜の力学応答については一定の研究成果が得らていると判断し,令和5年度は4He膜の力学応答における量子効果について実験を進める予定であり,令和4年度に予定したいた実験装置や実験セルなどの変更を今後行う予定である。
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