研究課題/領域番号 |
21K03466
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
古賀 幹人 静岡大学, 教育学部, 教授 (40324321)
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研究分担者 |
松本 正茂 静岡大学, 理学部, 教授 (20281058)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 磁性 / スピン四極子 / 超音波共鳴 / ダイヤモンドNV中心 / シリコンカーバイド |
研究実績の概要 |
令和5年度の前半は、令和4年度に実施した研究成果をもとに新たな研究を展開した。具体的には、NV中心と呼ばれるダイヤモンド内窒素-空孔複合体の空孔スピン三重項状態と同じく、超音波によって誘起される格子歪みに敏感なシリコン・カーバイド(SiC)のSi欠陥に生じるスピン四重項状態に対して、本研究の独自の視点である磁場方向分解超音波共鳴の基礎理論を適用した。特に、未確定のスピン-格子歪み相互作用の結合定数を評価する解析方法を提案した。これは、2020年に報告された磁場回転によるスピン音波共鳴の測定を受けて急遽研究計画に追加した研究である。スピンのもつ四極子自由度が測定にどのように現れるか、3回対称性のある結晶軸と超音波の進行方向とを考慮して詳細に検討した点は、将来の超音波によるスピン制御に向けた重要な研究成果である。 Si欠陥スピンのような磁気四重項では、四極子自由度よりもさらに高次の八極子自由度もスピンの隠れた自由度として超音波共鳴による観測が期待される。令和5年度の後半では、四極子物性として盛んに研究されたCe系の結晶場四重項に起因する多極子自由度が、超音波共鳴にどのように現れるか、またその測定の可能性についても検討している。 令和4年度から取り組んできたNV中心に関する研究成果、および令和5年度に主に取り組んだSiCに関する研究成果は、学術雑誌論文として出版された。令和5年度においては、後者の研究について、日本物理学会で成果発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度内においては、海外での研究進展の動向に鑑み、SiCのSi欠陥スピンに関する超音波共鳴の理論構築に取り組んだ。当初計画にはなかった研究にも着手した結果、スピン四極子に関する新たな知見を得るとともに、実際の実験解析に有用な解析手法を確立し、その研究成果を学術論文として発表することができた。また、この成果によって、次に予定しているCe系等の結晶場四重項に対する超音波共鳴について、実際にどのような実験手段が可能か、見通しよく理論を構築することが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
まず、SiCのSiC欠陥に生じるスピンの超音波共鳴について、実験と比較可能な理論を構築したのきっかけに、本研究計画の対象物質であるCe系の結晶場磁性四重項を新たなターゲットとして精査していく予定である。特に、Ce系の結晶場四重項に起因する四極子秩序の最近のミクロ測定として、電子スピン共鳴が報告され、その相補的な測定手段として超音波共鳴の可能性を検討することも重要である。特に、結晶場四重項では、四極子よりも高次であり隠れた自由度として知られる八極子にも焦点を当て、その実験的検出の可能性についても調べる。 さらに、当初の研究計画として実施予定である、複数のスピンが絡み合う複合スピン系の多極子自由度に向けた理論構築に取り組んでいく。具体的には、ネマティック秩序や電気磁気効果を引き起こす四極子の検出に向けた超音波共鳴の理論構築を目指す。 以上、単一スピンから結晶場多重項、さらに複合スピン系に至るまで、スピン四極子の性質が超音波によってどのような測定が可能か明らかにする。さらに電磁波と超音波を組み合わせたより広範な測定手段の実現性についても検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費に関しては、現在使用している計算機に必要な周辺機器等を、現在の価格動向を踏まえた上で次年度に精査し、できるだけ早期に購入する計画である。また、次年度に計画している数値的研究におけるデータ解析のための計算ソフトウエアの追加購入も検討中である。 旅費については、現地開催の学会には計画どおり参加することができたが、参加見送りの会議について出張のために計上していた経費が未使用となった。また、コロナウイルス完全拡大に関する県外への出張制限・自粛要請が緩和されたことにより、今年度から他大学の研究室や研究機関との研究交流を通常通りに戻しつつあるが、未使用となった旅費については次年度の研究交流に使用する予定である。 また、その他の項目として、令和5年度の研究成果に関する論文原稿英文校閲料も計上していたが、未使用の経費は、次年度での論文出版経費に追加して使用する計画である。
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