研究課題/領域番号 |
21K03467
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
大原 繁男 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60262953)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 不斉合成 / 融剤法 / キラル磁性体 / ハニカム磁性体 |
研究実績の概要 |
第一に,密封された融剤法における結晶核生成制御の技術開発を行った.制御には育成温度の振動と種結晶を用いた.キラル物質YbNi3Al9とその母物質にあたるYbAl3が試験試料である. 母物質のYbAl3の育成では,温度振動による結晶核数制御に成功した.YbAl3は状態図があるため温度振動法での育成条件がわかる.三元系化合物YbNi3Al9では晶析温度の割り出しから行った.過飽和しやすく,想定よりもはるかに低温で晶析することがわかった.今後,温度振動法による結晶核制御を進める. YbNi3Al9では種結晶利用も試みた.晶析する結晶の数が減り大型化する場合もあるが,再現性に乏しく,現段階では偶然に左右される.今後,温度勾配をつけて,種結晶の利用を進める. 第二に,キラル物質GdNi3Ga9およびSmNi3Ga9の磁性の解明を進めた.GdNi3Ga9の良質な結晶が得られるようになり,NiへのCo置換効果も明らかとなった.キラルらせん磁性と推定される磁気相が12%のCo置換により広がることがわかった.比較のため,非磁性のLuNi3Ga9へのCo置換の影響を調べている.SmNi3Ga9の磁性については,細かな再現性が得られていない.結晶の良質化を進める. 第三に,YbAl3を出発点とした物質探査を行った.キラル物質は得られなかったが,希土類イオンがカゴメ格子を成すYb6Pd15Al53やハニカム構造になるSm4Pd6Al24などの新物質の得た.Yb6Pd15Al53は常磁性体であった.Sm4Pd6Al24は傾角反強磁性体と推定される.局所的な反転対称の破れにより,強磁性成分を持つと解釈できる.今後,基本物性を明らかとして報告をまとめる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
不斉合成法開発では,融剤法に温度振動を加えることでYbAl3の結晶核数制御に成功した.キラル物質YbNi3Al9とNiを6%Cuで置換した試料へのこの方法の適用を始めた.いくつかの温度で急冷して取り出して晶析を調べることで,温度を振動させる領域を明らかとした.過飽和があり,晶析する温度は低くて狭い.YbNi3Al9では種結晶の効果も調べた.予め原材料と共に種結晶を入れることで,再現性が乏しいが,晶析する結晶の数が減り大型化する場合がある. キラル磁性の研究では,DyNi3Ga9の磁気構造について論文を公表した.この物質は温度10Kでキラル磁気構造に秩序する.ハニカム面に配列した磁気モーメントが面内で反強磁性となり,その容易軸が片巻き螺旋となる.同時に電気四極子秩序が生じ,その成長により螺旋が9Kにおいて解けて,低温では傾角反強磁性が育つ. このほか,この物質系においてCo置換効果を調べた.DyNi3Ga9の電気四極子秩序はCo置換で抑制でき,格子歪の解消に伴い低温で観測される磁化プラトーが消失する.GdNi3Ga9ではCo濃度12%においてキラル磁性の性質が強調された.DyNi3Ga9と同様の反強磁性キラル螺旋磁気秩序の発現が期待される.Van Vleck常磁性項に注目してSmNi3Ga9の磁性研究も進めたが,細かな再現性が得られていない.結晶の質に問題があると考えている. 並行してYbAl3を出発点とした物質探査を進めた.キラル物質は得られなかったが,ハニカム構造やカゴメ格子をもつ新物質を発見した.Smイオンがハニカム構造をなすSm4Pd6Al24は傾角反強磁性体と推定できる.Ybイオンがカゴメ格子を形成するYb6Pd15Al53はパウリ常磁性体であった.このほか,メタ磁性転移を起こすEuPtAl6を発見しており,低温物理学の国際会議(LT29)で発表を予定している.
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今後の研究の推進方策 |
キラル物質の不斉合成法の開発をYbNi3Al9とその6%Cu置換試料について進める.晶析温度を元に,温度を振動させる領域を定め,結晶核数の制御条件を探査する.結晶の単一化は温度振動法によってできるが,結晶の左右性の制御には種結晶の利用が必要である.これまで種結晶の利用については効果の再現性が乏しい.種結晶の利用においても晶析温度が重要である.結晶育成時の最高温度の抑制と電気炉内の温度勾配を利用して,種結晶の効果が再現よく現れる条件を探査する. キラル磁性の研究として,非磁性のLuNi3Ga9へのCo置換効果の測定を進める.DyNi3Ga9とGdNi3Ga9へのCo置換では,対称スピン相互作用と反対称スピン相互作用の相対的な強さが変化することが観測される.Co置換により正孔や乱れが導入され,フェルミエネルギーや対称性に影響すると考えられる.しくみを解明するために非磁性LuNi3Ga9へのCo置換効果の観測を行う.特に,キャリア濃度と状態密度を測定し,伝導電子を介した磁気相互作用への影響を考察する.SmNi3Ga9の磁性については,結晶の良質化をすすめて,測定を続ける.Van Vleck常磁性項へのCo置換効果にも注目する. これまでの物質探査で得られた新物質Sm4Pd6Al24やYb6Pd15Al53などについては,比熱,磁性,電流磁気効果などの基本物性を明らかとして報告をまとめる.
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