研究課題/領域番号 |
21K03468
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
池田 隆介 京都大学, 理学研究科, 准教授 (60221751)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 超伝導 / 渦糸 / パウリ常磁性 / 弾性揺らぎ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、特定の方向の磁場下で鉄系超伝導体 FeSe において発現が確認された高磁場低温超伝導相の正体を、この系に特徴的な強い超伝導揺らぎ効果と無矛盾な形で明らかにし、磁場下の超伝導の基礎理論の視野を広げることである。本研究課題を立ち上げてから一年ほどして、準2次元構造を有する FeSe の層に垂直な磁場下でも高磁場低温相の存在が確認され、 層に平行磁場下での相と特徴が違うことから、これら二つの新奇超伝導相の詳細は異なると想定し、両者を無矛盾な形の解明という目標に重点を置いて研究を進めている。その結果、まず層に垂直磁場下での渦糸格子融解線を記述する理論研究を進め、この場合の高磁場低温相は磁場に沿って、つまり渦糸が延びる方向に秩序パラメタが空間変調するFFLO 渦糸格子であることを結論することができた。 しかし、パウリ常磁性の強い状況での渦格子融解転移線を記述する理論はこれまで報告されたことがなかった。実際、FeSeの実験で見た磁場温度相図での不可逆線(電気抵抗がゼロになる磁場)は、30年ほど前に銅酸化物高温超伝導体で見られた相図において下に凸の転移線ではなく、渦糸液体領域が広く、Hc2線(平均場近似転移線)と同様に上に凸の転移線を示していた。今回、パウリ常磁性効果の強い超伝導体の渦糸融解転移線を渦格子の弾性揺らぎの低エネルギーモードの解析を通して導出することに成功し、実験事実で見られた上に凸の転移線がパウリ常磁性効果の存在の証拠であることを明らかにすることができた。この成果は米国雑誌に投稿され、発表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和3年度(2021年度)の成果から、高次ランダウ準位渦糸状態の理論的な研究を進めることを研究題材の一つに据えていたが、渦糸状態における電気抵抗の消失の理論という、より実験事実との関連が深い題材に多くの時間を費やし、この研究を共同で行っていた大学院生の修士論文の題材として整理するのに多くの時間を要したのが主な理由である。この電気抵抗消失の理論は補足的な計算を現在も加えており、その成果を令和5年度前半に投稿論文にまとめる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
渦糸状態における電気抵抗の消失の理論を投稿論文にまとめ、前年度に本来予定していた高次ランダウ準位渦糸状態の理論に着手する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度7月にカナダ国バンクーバーで開催の超伝導国際会議において口頭講演者にノミネートされており、出席予定であった。ただ、大学の学部授業の夏学期期間中であり、当初振替可能日に授業日を変更して会議に出席予定にしていたのだが、学部教務関係からの要請で授業実施日の変更が困難になったため、従来の日程での授業実施を優先せざるを得なくなり、国際会議の出席を急遽取りやめた。このことによる航空運賃と、ホテル宿泊代5泊分の不使用が主な理由であり、日本物理学会の春季大会が完全オンライン開催になり、数日分のホテル宿泊代3人分が不要になったことがもう一つの理由である。
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