研究課題/領域番号 |
21K03471
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
市岡 優典 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 教授 (90304295)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 超伝導渦糸状態 / 磁場中物性 / ネマティック超伝導 / 鉄系超伝導体 / 多軌道電子系 / 物性理論 / 銅酸化物高温超伝導体 |
研究実績の概要 |
鉄系超伝導体FeSe の2回対称なネマティック超伝導の渦糸状態を主な対象とし、多軌道電子系超伝導における磁場下の渦糸状態での物性を解明することを目的に、超伝導渦糸状態の空間構造と物性について定量的理論計算を実施する手法の開発を進めている。超伝導渦糸状態の空間構造と物理量の理論計算手法は、これまで独自に開発してきた渦糸格子でのEilenberger 理論計算をベースにして研究を進め、この手法の中でネマティック超伝導の特徴を考慮できるように発展させている。前年度の研究では、超伝導ギャップの2回対称性の効果に加え、フェルミ面形状の2回対称性を考慮に入れて渦糸状態の空間構造を評価する理論計算手法を開発したが、1つのフェルミ面のみを抜き出して扱うモデルであった。しかし、実際のFeSeは複数のフェルミ面からなるため、STM実験との比較などにおいて、他のフェルミ面からの寄与の評価が検討課題となっていた。そこで、FeSeのネマティック電子状態に対する第一原理電子状態計算から得られた多軌道tight-bindingモデルによる多バンドフェルミ面と実験で観測された異方的超伝導ギャップ構造を考慮できる計算手法を開発し、渦糸まわりの局所電子状態の理論計算結果から、走査型トンネル顕微鏡で観測された渦糸像における多バンド構造の寄与を解明する研究を進めた。 また、ここで開発した計算手法を応用して、銅酸化物高温超伝導体La_2-x_Sr_x_CuO_4_のフェルミ面形状を考慮したEilenberger理論計算により、渦糸格子変形に伴う自由エネルギーの変化を定量的に計算し、安定な渦糸格子形状の磁場変化を理論評価した。そして、高磁場で正方格子の方位が45度回転する転移が存在することを示し、この系におけるパルス強磁場下の超音波実験で観測された異常を説明することに成功するなど、他の系への研究の展開も進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超伝導渦糸状態の空間構造と物理量の理論計算手法は、これまで独自に開発してきた渦糸格子でのEilenberger 理論計算をベースにして研究を進め、この手法の中でネマティック超伝導の特徴を考慮できるように発展させている。今年度は、FeSeのネマティック電子状態に対する第一原理電子状態計算から得られた多軌道tight-bindingモデルでのフェルミ面構造の情報をEilenberger 理論計算に取り込む計算手法を開発し、多バンド超伝導体の異方的フェルミ面形状の上での超伝導異方性も扱うことを可能とした。この手法は、様々な物質系における第一原理電子状態計算の結果にも活用できることから、本研究の発展性の面からも大きな進捗であると言える。また、FeSeの多バンド超伝導状態における各バンドからの寄与についての定量的な理論評価も可能となる進展である。 また、本研究で開発した計算手法を応用して、銅酸化物高温超伝導体における、高磁場で正方格子の方位が45度回転する転移の存在を示すことに成功して国外の実験グループとの共著論文を発表するなど、国際共同研究の展開にも進捗があった。この他、本研究の知見を、準結晶での超伝導に展開させる研究も開始するなど研究を発展させている。 ただし、これらの成果をまとめて学術雑誌に論文発表する作業が残っているため「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に実施したFeSeのネマティック電子状態に対する第一原理電子状態計算から得られた多軌道tight-bindingモデルによる多バンドフェルミ面を考慮した渦糸まわりの局所電子状態の理論計算に関する計算結果と考察について、学術雑誌での成果発表に向け成果の取りまとめを行う。また、多バンド超伝導の効果を取り込み、低温比熱などの物理量に関して磁場の大きさや方位への依存性などの理論計算を進め、実験結果との定量的な比較検討を行なって、ネマティック超伝導の異方性の効果を定量的に解明する研究を進める。また、これまでの研究で得た知見をもとに、ネマティック異方性の方位が変化するネマティック双晶境界における渦糸状態の構造に関する理論計算についても研究を展開する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、学会や研究会などの成果発表の機会がオンラインまたはハイブリッド開催となってしまい現地参加の機会が少なかったこと、海外出張が容易にできる状況でなく、研究打合せもほとんどがオンラインで実施することになってしまったことから、共同研究者の大学院生の出張も含め、旅費や学会参加費などの予定していた支出が使用できなかった。次年度使用額については、学会や研究会などの研究成果発表のための出張旅費に使用する他、これまでの研究成果を論文としてまとめ発表する予定であるため、その論文出版のための経費として使用する予定である。
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