研究課題/領域番号 |
21K03476
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
渡辺 忠孝 日本大学, 理工学部, 教授 (70409051)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 高エントロピー物質 / ボンドフラストレーション / 超音波測定 / カンター合金 / スピネル酸化物 / 量子臨界現象 |
研究実績の概要 |
カンター合金系ランダム磁性体Cr0.8CoNiについて、単結晶を用いた超音波音速測定を行った。カンター合金系中エントロピー合金CrCoNiはパウリ常磁性を示すが、 CrxCoNiにおいてCr量xで制御される強磁性量子臨界性の発現(x ~ 0.8)が報告されている。この量子臨界性の発現は、Cr量xに依存するボンドフラストレーションが生じた結果であるとの指摘がある。CrxCoNiについては、ボンドフラストレーションに由来して格子の不安定性が生じているとの指摘もされている。また、Cr0.8CoNiについては、磁場印加により量子臨界領域からフェルミ液体領域へのクロスオーバーが生じているとの報告もある。本研究では、量子臨界挙動の発現が期待されるCr0.8CoNiについて実験を行った。その結果、磁場印加による量子臨界領域からフェルミ液体領域へのクロスオーバーに由来すると思われる弾性異常の観測に成功した。 スピネル酸化物AB2O4について、AサイトあるいはBサイトを高エントロピー化した物質の多結晶合成を試みた。スピネル酸化物AB2O4は、Bサイトがパイロクロア格子を形成する典型的な幾何学的フラストレート磁性体の結晶構造を有するが、高エントロピー化により強いボンドランダムネスを導入することにより、幾何学的フラストレーションとボンドフラストレーションが競合する磁性体が得られると期待される。本研究での実験の結果、高エントロピー型スピネル酸化物(Zn0.2Cd0.2Mn0.2Fe0.2Co0.2)Cr2O4と中エントロピー型スピネル酸化物Zn(V0.25Cr0.25Mn0.25Fe0.25)2O4の単相多結晶の合成に成功した。これらの物質について磁化率測定を行ったところ、いずれの物質においても約30 K以下でのスピングラス挙動が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中~高エントロピー型ランダム磁性体における超音波測定による新奇物性研究については、カンター合金系Cr0.8CoNiの実験で量子臨界性由来の弾性異常を観測することができた。本年度は、Cr0.8CoNi以外の物質での超音波測定には着手できなかったが、Cr0.8CoNiの実験で当初期待していた以上の結果を得ることができた。このことから、中~高エントロピー型ランダム磁性体における超音波測定による研究は、おおむね順調に進展していると考えている。 新しい中~高エントロピー型ランダム磁性体の探索研究については、本年度は当初計画ではカンター合金系を対象に研究を進める予定であった。しかし、本年度はカンター合金系において新しい中~高エントロピー型ランダム磁性体を見出すことはできなかった。その一方で、当初計画では予定していなかったスピネル酸化物において、新しい中~高エントロピー型ランダム磁性体の合成に成功した。このことから、新しい中~高エントロピー型ランダム磁性体の探索研究についても、研究はおおむね順調に進展していると考えている。 以上、当初計画を一部変更して研究を進めてきたものの、中~高エントロピー型ランダム磁性体の研究に超音波測定を適用する、あるいはボンドフラストレーションを有する新しい中~高エントロピー型ランダム磁性体の探索研究を行うという本研究課題の主旨から判断すると、本研究課題は当初期待していた水準の研究成果を挙げており、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
超音波測定については、まずはカンター合金系CrxCoNiのx = 0.8以外の組成の物質について実験を行い、CrxCoNiの量子臨界性に対するスピン・格子結合の寄与を研究する。また、カンター合金系CrxCoNi以外の物質についても、実験遂行の目途が立った場合は速やかに実験に着手する。例えば、すでに多結晶の合成に成功している中~高エントロピー型スピネル酸化物の実験に着手したいと考えている。単結晶での実験が困難な場合でも、多結晶での実験で有意な結果が得られると判断できる場合は、多結晶での実験に速やかに着手するつもりである。 新しい中~高エントロピー物質の探索研究については、すでに多結晶合成に成功した物質について単結晶合成を行うとともに、さらなる新しい中~高エントロピー物質の探索を行う。これまでのところ当初計画通りに研究が進展していないカンター合金系については、引き続き研究を行う。また、当初計画で予定していたラーベス化合物を対象とした新しい中~高エントロピー物質の探索研究に着手する。
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次年度使用額が生じた理由 |
超音波測定による研究に使用する物品費については、当初計画で研究対象とした物質種よりも少数の物質種においてより深く研究が進展する結果となり、当初計画よりも研究に要した物品が少なかったために次年度使用額が生じた。この額は、次年度により広範な物質種について研究を進めていく上で物品費として必要となるものである。 新しい中~高エントロピー物質の探索研究に使用する物品費については、カンター合金系の研究が当初計画の通りに進展しなかったため、物質合成の原材料費をはじめとする物品費に次年度使用額が生じた。この額は、次年度に継続して研究を進めていく上で物品費として必要となるものである。また、当初計画にはないスピネル酸化物の研究で新たな進展があったことから、次年度使用額の一部はこちらの研究の物品費として使用する予定である。 旅費については、当初計画で予定していた国内学会と国際学会の出張が、新型コロナウイルスの影響で中止となった。
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