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2023 年度 実施状況報告書

超音波を用いた中~高エントロピー物質におけるボンドフラストレーション効果の研究

研究課題

研究課題/領域番号 21K03476
研究機関日本大学

研究代表者

渡辺 忠孝  日本大学, 理工学部, 教授 (70409051)

研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2025-03-31
キーワード高エントロピー物質 / ボンドフラストレーション / 幾何学的フラストレーション / スピネル酸化物 / カンター合金 / 超音波測定
研究実績の概要

スピネル酸化物磁性体AB2O4について、Aサイトを高エントロピー化した(n-A1/n)B2O4 (n = 4, 5, 6)と、Bサイトを高エントロピー化したA(n-B1/n)2O4 (n = 4, 5, 6)の単相多結晶の合成を試みた。スピネル酸化物AB2O4は、Bサイトがパイロクロア格子を形成する典型的な幾何学的フラストレート磁性体の結晶構造を有するが、高エントロピー化により幾何学的フラストレーションとボンドフラストレーションの競合が生じてユニークな新物性が発現すると期待される。
Aサイトを高エントロピー化したスピネル酸化物(n-A1/n)B2O4については、クロムスピネル(n-A1/n)Cr2O4 (n = 4, 5, 6; A = Mg, Zn, Cd, Mn, Fe, Co, Ni, Cu)の合成を試み、(Zn1/5Mn1/5Fe1/5Co1/5Ni1/5)Cr2O4など11種の物質の単相多結晶の合成に成功した。また、これらの物質は、Aサイトの元素の組み合わせに依存して異なる磁気基底状態を有することが明らかになった。具体的には、(n-A1/n)Cr2O4の中には反強磁性転移を示す物質、強磁性転移を示す物質、スピングラス転移を示す物質、低温まで磁気転移を示さない物質が存在することが明らかになった。
Bサイトを高エントロピー化したスピネル酸化物A(n-B1/n)2O4については、亜鉛スピネルZn(n-B1/n)2O4 (n = 4, 5, 6; B = V, Cr, Mn, Fe, Co, Ga)の合成を試み、Zn(V1/5Cr1/5Mn1/5Fe1/5Co1/5)2O4など8種の物質の単相多結晶の合成に成功した。また、これらの物質はいずれもスピングラス転移を示し、その転移温度はBサイトの元素の組み合わせに依存して異なることが明らかになった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

超音波測定による物性研究については、カンター合金系中エントロピー合金Cr0.8CoNiの超音波音速測定で、量子臨界性由来の弾性異常の観測に成功した。また、擬ブルッカイト酸化物ATi2O5 (A = Fe, Co)の超音波音速測定で、フラストレーション由来の弾性異常の観測に成功した。ATi2O5の研究は当初計画にはなかったものであり、ATi2O5は中~高エントロピー物質には該当しないが、ATi2O5の研究で得られた知見は本研究課題を今後進展させる上で参考となる重要なものである。以上の研究成果から判断して、本研究課題での超音波測定による物性研究は、おおむね順調に進展していると考えている。
新しい中~高エントロピー型ランダム磁性体の探索研究については、本年度は当初計画ではラーベス化合物を対象に研究を進める予定であったが、方針を変更して当初計画にはなかったスピネル酸化物を対象に重点的に研究を進めた。その結果、新しい中~高エントロピー型ランダム磁性体である中~高エントロピー型スピネル酸化物の単相多結晶の合成に成功した。このことから、新しい中~高エントロピー型ランダム磁性体の探索研究についても、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
以上、当初計画を変更して進めた研究は多いものの、中~高エントロピー型ランダム磁性体の研究に超音波測定を適用する、あるいはボンドフラストレーションを有する新しい中~高エントロピー型ランダム磁性体の探索研究を行うという本研究課題の主旨から判断すると、本研究課題は当初期待していた水準の研究成果を挙げており、おおむね順調に進展していると考えている。

今後の研究の推進方策

これまでの研究で、当初計画では研究対象物質としていなかったスピネル酸化物AB2O4において、Aサイトを高エントロピー化したクロムスピネル(n-A1/n)Cr2O4で11種の物質の単相多結晶の合成に成功し、Bサイトを高エントロピー化した亜鉛スピネルZn(n-B1/n)2O4で8種の物質の単相多結晶の合成に成功した。そこで今後は、スピネル酸化物AB2O4の高エントロピー型ランダム磁性体について重点的に研究を進めていく予定である。単相多結晶の合成手法を確立した物質については、フラックス法による単結晶合成も行う。高エントロピー型スピネル酸化物の多結晶および単結晶について超音波測定を始めとする物性測定を行い、ボンドフラストレーションが誘起するユニークな新物性の探索研究を行う。
当初計画で研究対象物質としたラーベス化合物AB2については、現在も中~高エントロピー型ラーベス化合物の単相多結晶の合成と物性評価を進めている。ラーベス化合物については、引き続き研究を進める予定である。

次年度使用額が生じた理由

本課題の1年目に予定していた国内学会1回分と国際学会1回分の出張が新型コロナウイルスの影響で中止となったこと、ならびに本課題の2年目に予定していた国際学会1回分の出張を新型コロナウイルスの感染状況を考慮して見合わせたことにより、当初計画で旅費での使用を予定していた額から次年度使用額が生じた。
この次年度使用額は、当初の計画を変更して旅費ではなく物品費として使用する予定である。具体的には、当初計画にはなかったスピネル酸化物の研究で新たな進展があったことから、次年度使用額はこちらの研究の物品費として使用する予定である。

  • 研究成果

    (12件)

すべて 2024 2023 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件)

  • [国際共同研究] オークリッジ国立研究所(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      オークリッジ国立研究所
  • [国際共同研究] オックスフォード大学(英国)

    • 国名
      英国
    • 外国機関名
      オックスフォード大学
  • [雑誌論文] Ultrasound Velocity Measurements in Pseudo-Brookite-Type Magnet ATi2O5 (A = Fe, Co)2023

    • 著者名/発表者名
      Ray Nishimura, Kazuya Takayanagi, Franz Lang, Franziska K. K. Kirschner, Dharmalingam Prabhakaran, Stephen Blundell, Yoshiaki Hara, and Tadataka Watanabe
    • 雑誌名

      JPS Conference Proceedings

      巻: 38 ページ: 011113 (1-6)

    • DOI

      10.7566/JPSCP.38.011113

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Elastic Properties of Cantor-Alloy-Type Random Magnet Cr0.8CoNi2023

    • 著者名/発表者名
      Mai Watanabe, Brian C. Sales, and Tadataka Watanabe
    • 雑誌名

      JPS Conference Proceedings

      巻: 38 ページ: 011134 (1-5)

    • DOI

      10.7566/JPSCP.38.011134

    • 査読あり / 国際共著
  • [学会発表] クロムスピネルZnCr2O4におけるZnサイトのハイエントロピー化効果2024

    • 著者名/発表者名
      遠藤将, 大塚啓量, 渡辺忠孝
    • 学会等名
      日本物理学会2024年春季大会
  • [学会発表] 遍歴フラストレート反強磁性体CrB2の弾性異常2024

    • 著者名/発表者名
      菅沼さくら子, A. Bauer, 渡辺忠孝
    • 学会等名
      日本物理学会2024年春季大会
  • [学会発表] 遍歴反強磁性体CrB2の弾性特性2023

    • 著者名/発表者名
      菅沼さくら子, A. Bauer, 渡辺忠孝
    • 学会等名
      日本物理学会第78回年次大会(2023年)
  • [学会発表] ラーベス相化合物(Ce1-xRx)Fe2(R = Pr, Nd, Lu)の磁性2023

    • 著者名/発表者名
      奥村陸, 渡辺忠孝
    • 学会等名
      日本物理学会第78回年次大会(2023年)
  • [学会発表] ハイエントロピー型スピネル酸化物Zn(V-Cr-Mn-Fe-Co-Ga)2O4の磁性2023

    • 著者名/発表者名
      渡辺竜也, 渡辺忠孝
    • 学会等名
      日本物理学会第78回年次大会(2023年)
  • [学会発表] Magnetism of high-entropy-type chromite spinel (Zn-Cd-Mn-Fe-Co-Ni)Cr2O42023

    • 著者名/発表者名
      Hirokazu Otsuka and Tadataka Watanabe
    • 学会等名
      Condensed Matter Division of the European Physical Society 30 (CMD30)
    • 国際学会
  • [学会発表] Magnetism of compositionally complex spinel Zn(V-Cr-Mn-Fe-Co)2O42023

    • 著者名/発表者名
      Tatsuya Watanabe and Tadataka Watanabe
    • 学会等名
      Condensed Matter Division of the European Physical Society 30 (CMD30)
    • 国際学会
  • [学会発表] Substitution effect on magnetism of Laves-phase compound CeFe22023

    • 著者名/発表者名
      Riku Okumura, Hibiki Miyasaka, and Tadataka Watanabe
    • 学会等名
      Condensed Matter Division of the European Physical Society 30 (CMD30)
    • 国際学会

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公開日: 2024-12-25  

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