研究課題/領域番号 |
21K03478
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
樹神 克明 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究主幹 (10313115)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 磁気対相関関数 / フラストレート金属磁性体 |
研究実績の概要 |
フラストレート金属磁性体Mn3RhSiについて粉末中性子回折データから磁気対相関関数(磁気PDF)を導出した。この系は磁気転移温度以上では常磁性相と短距離磁気秩序相、磁気転移温度以下では長距離磁気秩序相と短距離磁気秩序相が共存する異常なふるまいが知られている。本物質の磁気転移温度以下の磁気PDFを調べることにより、短距離秩序相の磁気構造が長距離磁気秩序相のそれとは異なることを明らかにした。また磁気転移温度以上で得られた磁気PDFを詳しく解析することにより、短距離秩序相では単位格子中に4つ存在する正三角形ユニット内で渦巻き状の120度構造が形成され、4つのうち2つの正三角形ではその配列がさらに180度反転していることがわかった。この短距離磁気構造は元の結晶構造の対称性を破っており、6重に縮退した状態になっている。さらにこの縮退した磁気構造は正三角形ユニットの重心位置の配列が面心立方格子とほぼ一致していることによるフラストレーション効果に起因することも明らかになった。本物質はフラストレート金属磁性体ではあるものの、低温で長距離磁気秩序相をもつために大きな電子比熱を示す、いわゆる重い電子的ふるまいは示さないが、このような系においてフラストレーションに起因する縮退した短距離磁気構造が実現され得ることが明らかになった。また同じ結晶構造をもつMn3CoSiに対しても中性子回折実験を行ったところ、磁化率に異常がみられる150K以下の温度域においてMn3RhSiと似た特徴を持つ磁気PDFを観測した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は低温で長距離磁気秩序を持たず大きな電子比熱係数を示すβ-Mn0.8Co0.2の中性子回折データから磁気PDFを導出すること、同様に重い電子的ふるまいを示すスピネル化合物LiV2O4の試料作製を行う計画であった。前者については実施できており、現在データ解析を行っている最中であるが、後者はまだ試料を得られていないため、予定よりやや遅れている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
フラストレート金属磁性体に対して磁気PDF解析を適用することにより、その短距離磁気構造の決定を行う。 磁気構造決定昨年度実施したβ-Mn0.8Co0.2の中性子回折実験のデータを用いて磁気PDF解析を行う。特に同様の磁性イオンの配列をもつMn3RhSi系の磁気構造と類似しているかどうかに着目して、この物質の低温における磁気構造を調べる。またスピネル化合物LiV2O4の試料を作成し、同様に中性子回折データから磁気PDFを導出して、低温での短距離磁気構造を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響によって、参加を予定していた学会等がオンライン開催となり、旅費を使用しなかったため。 中性子回折実験用試料を合成するための試薬の購入や、試料容器などの中性子回折実験で必要となる消耗品の購入に用いる。
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