研究課題/領域番号 |
21K03479
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山本 哲也 北海道大学, 化学反応創成研究拠点, 特任准教授 (40610027)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 転写凝集体 / 転写ダイナミクス / 新生RNA / 核小体 |
研究実績の概要 |
最近の実験によって、mRNAの転写によって転写凝集体が不安定化することが示唆されている(Henninger et al., Cell, 2021)。この論文で行われているシミュレーションでは、mRNAが転写凝集体内部に形成されることを仮定しているが、転写凝集体の構成分子とmRNAが反発することから、mRNAは凝集体の表面に局在化すると考えられる。一方、RNAポリメラーゼI(Pol I)による新生リボソームRNAの転写は核小体のミクロ相である繊維長中心(FC)の表面で起こっているが、転写を抑制するとFCが融合して大きな凝集体になる。両方の凝集体が対応するRNAポリメラーゼを格納しており、同様な性質を持つことから、この二つに共通した凝集体制御機構があると考えられる。 そこで、私は、転写によって凝集体表面に局在化した新生RNAの間の相互作用を考慮に入れて、転写ダイナミクスが凝集体の安定性に与える寄与を理論的に解析した。新生RNAはRNA結合タンパク質(RBP)とRNP複合体を作り、面内に圧力を発生する。転写を抑制したときには、凝集体のダイナミクスが表面エネルギーによって支配されているために、1つの大きな凝集体が安定になる。一方、転写を抑制しないときには、表面張力と新生RNP複合体の圧力のつり合いによって決まる最適な半径がある。転写速度を大きくすると、凝集体の最適な半径が小さくなることが分かった(Yamamoto et al. bioRxiv, 2021)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
転写凝集体の形成ダイナミクスを考慮に入れて、転写ダイナミクスを予言することが目的であるが、その基礎となるモデルを構築することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の開始後に、私が所属している学術変革領域A(ゲノムモダリティ)に、深谷教授(東大)と落合准教授(広島大)が公募研究の研究代表者として参加された。彼らは、私の研究に対応する実験を行っているので、是非とも共同研究の関係を構築したいと考えている。これまでは、新生RNAによる凝集体の不安定化の解析を行ってきた。この解析では、RNAポリメラーゼは、転写が終わると凝集体に戻ることを仮定していた。核小体FCの系ではおそらくこのモデルは正しいが、転写凝集体の系ではPol IIが転写開始後、転写凝集体から解離することが示唆されている。そこで、Pol IIの転写凝集体からの解離を考慮に入れてモデルを拡張し、転写凝集体の形成・消滅と転写ダイナミクスのカップリングの解析を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ渦のために、大学に海外出張が禁止され、共同研究者との打ち合わせのためにドイツへの出張ができなかったから。今年は、海外出張が解禁されると予測できるので、予定通りに研究打ち合わせのためにドイツの共同研究者の研究室を訪問する予定である。
|