研究実績の概要 |
分裂酵母は、転写不活性領域であるヘテロクロマチンの形成を調べるためのモデル系として研究されてきた。村上洋太教授グループ(北大)は、最近の研究で、タンデムにリピートされた遺伝子がヘテロクロマチン化されることを発見した。分裂酵母のヘテロクロマチンはRNA干渉経路によって形成されるが、その主要なプロセスである小分子RNAの生成に必要なRDRC/Dicerは核膜表面に局在化することが示唆されている。遺伝子のタンデムリピートは、同じ繰り返し単位(遺伝子)が「つながっている」(連結性)ため、「つながり」の物理である高分子物理のアプローチが有用であると考えられる。そこで、私は、高分子の表面吸着のエッセンスを新生RNAとRDRC/Dicerとの結合を記述する時間発展方程式に組み込み、RNA干渉経路の速度方程式を解くことにより、遺伝子のリピート数だけでなく、遺伝子の長さも小分子RNAの生成速度を大きくするための重要なパラメータであることを示した。Epe1が減少すると、ヘテロクロマチンのマーカーが減少することが実験的に示されている。本研究で構築したモデルを用いて、Epe1の脱メチル化活性がこの現象に重要な役割を果たすことを示した。本研究は、リピート配列の生物物理学的意義の1つを発見した点で重要である。本研究の結果、Communications Biology誌(Yamamoto, Asanuma, Murakami, Comms. Biol., 6, 796 (2023))に掲載され、プレスリリースを行った(https://www.hokudai.ac.jp/news/2023/08/post-1276.html)。
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