最終年度では、これまでに本研究において構築した理論と実験データを比較することにより、曲率誘導タンパク質ドメイン、N-BAR、I-BARの異方的な曲げ弾性定数、自発曲率を決定した。また、対称性の低い曲率誘導タンパク質の曲げ弾性について、定式化を行い、非対称性の影響を理論的に調べた。また、ポッツ模型を非平衡に拡張し、サイクリックに一様相が入れ変わるモードと螺旋波が起こる条件があることを明らかにした。 研究期間全体を通じて、非平衡下で生体膜がとる形状変化、パターン形成を研究してきた。まず、曲率誘導タンパク質および、その制御因子の膜への吸着、膜上の拡散が引き起こす現象について反応拡散方程式と膜変形をカップルさせた計算を行った。自発的に反応波が生じる条件や刺激を与えた時だけ生じる興奮波の両方について、研究を行い、波によるくびれ形成などの膜変形、逆に、膜変形による波の速度変化や不安定化、分裂など、様々な現象を明らかにした。次に、膜チューブ形成にお ける曲率誘導タンパク質の天然変性領域の影響を調べた。天然変性領域は、膜に自発曲率を与えるとともに、タンパク質間、および、タンパク質集合体間に斥力を与え、膜チューブ形成を促進するだけでなく、条件によっては抑制することを明らかにした。また、平衡系での曲率誘導タンパク質の吸着と膜変形についての平均場理論の構築も行なった。側方方向に等方的なタンパク質から、BARドメインのように2回回転対称なタンパク質、対称性の低い異方的なタンパク質まで、様々なタイプについて理論を構築し、実験、シミュレーションと良い一致をすることを確認した。
|