研究課題/領域番号 |
21K03486
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
荒木 武昭 京都大学, 理学研究科, 准教授 (20332596)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 強誘電性ネマチック液晶 / 分子動力学シミュレーション / 分子モデリング |
研究実績の概要 |
近年実現され、活発に研究がなされている強誘電性ネマチック相の発現機構を解明すべく、数値シミュレーションを用いた研究を行った。まず分子構造の詳細は考えず、液晶分子を棒状粒子で近似し、中央付近に長軸に沿った電気双極子を与えた系を考える。太さが一定の場合には分子が横に並ぶ比率が高く、電気双極子相互作用を下げるべく、2分子間で電気双極子が互いに逆方向を向き分極が打ち消され、マクロには強誘電秩序が発生しない。そこで、横に並ぶ局所構造を抑制すべく、分子の中央付近の太さを大きくさせた分子を用意し、LAMMPSによる粗視化分子動力学シミュレーションを行った。現在までのところ自発的な強誘電秩序の発現は見られてはいないが、外場によって誘起させた強誘電性秩序は長時間にわたり持続することが分かった。しかしながら、この挙動は熱力学的に安定なものではなく、分子の回転運動がガラス化したことで緩和が起きなくなったためであることも考えられる。真の強誘電秩序か。ガラス化によるものか詳細な検討を行わなければならない。 また強誘電性ネマチック相発現が示唆されているDIO分子を想定し、より微視的な分子モデリングを行った。量子化学計算ソフトGaussianを用い電子密度を求め、原子ごとにRESP電荷を計算し、さらにGAFF場を使い分子力場を決めた。GROMACSを使い、1000分子からなる系の分子動力学シミュレーションを行った。計算時間が足りていないことが主な原因かと考えられるが、現在までのところ強誘電ネマチック相は発現していない。今後は外場によって誘起させた強誘電秩序が安定に存在できるか、他の分子系ではどのように振る舞うか、について検討を行いたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画ではR3年度は、粗視化分子動力学計算による強誘電性ネマチック相の探索のみを予定していたが、その後、報告された他グループの研究から、より微視的なアプローチが重要であると判断し、粗視化した系の研究と並行し、R4年度の予定を前倒しし、全原子動力学計算にも着手した。必要な計算時間が不十分なことが主な原因であると考えられるが、現時点で全原子モデルでの強誘電性ネマチック相の発現は観測できていない。そのため強誘電性を有することを想定した解析も進んでいない。また、2つの研究を並行して行ったため、R3年度に予定していた粗視化した系の研究が遅れていることは否めない。
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今後の研究の推進方策 |
R3年度は、R4年度に予定していた全原子動力学による計算にも着手したため、当初の予定より遅れているが、R4年度も継続して並行した研究を続けることで、十分に遅れを取り返すことができると考えている。グループにモデル粒子系の密度汎関数論、繰り込み群を用いた計算に長けた博士課程の留学生を迎えたことにより、強誘電ネマチックの系にも適用し、より解析的な計算にも取りくむことで、より一般的な分子モデリングも初めていきたい。
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