研究実績の概要 |
最終年度に実施した研究内容について説明する。本研究で開発した高圧下温度変調DSCについては、装置性能が不十分であり、微小な試料の複素熱容量を検出することはできなかった。一方で、温度変調を行わず高圧下DSCとしての運用を行い、試料セル内の圧力変化を検出しつづけることで低温における体積・熱容量の同時測定を行うことができた。試料として、1,2-アルキルジオール系の水溶液を用いて、低温における可逆な秩序構造形成について調査した。その結果、ミクロな相分離ではなく疎水性水和を示唆する体積の収縮を観察した。また、この素構造の形成が、引き続く高温でのクラスレートへの結晶化につながることが示唆される。しかしながら、溶液構造での秩序化と結晶かでは、大きな違いがあり、両者が連続的につながることは本研究中では観察できなかった。 水以外で固液臨界点を実現できると予想した細孔内のトリステアリンのα相については、球状シリカゲル、キャリアクトQ3やメソポーラスシリカMCM-41内に封入した試料について、断熱熱量計による精密熱容量を測定することで、低温では細孔中でもバルクのα相と同じ熱容量を示すこと、連続的な固液転位の実現は液相中での細孔形状による分子配列による秩序化が重要であることが示唆された。引き続き、構造について調査するためにIR測定用のクライオスタッドを作成中であるが、透過法での測定を可能とする試料のセッティングについて改良中である。 また、研究期間全体を通じて、高圧下温度変調DSCの作成などの挑戦的な内容については、未完成であり、今後も改良や測定方法の変更を行って、有効活用する方法を探る必要がある。一方で、トリステアリンのような細孔中で連続的かつ可逆な固液融解・結晶化を示す物質を見いだし、その相挙動を明らかにすることができたことは大きな成果であり、今後はより詳細な機構について調査する必要がある。
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