研究課題/領域番号 |
21K03492
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
須藤 誠一 東京都市大学, 理工学部, 教授 (10453945)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 自己光混合 / 光感度 / コロイド粒子 / 電気泳動現象 |
研究実績の概要 |
粒子径がnmの粒子の電気泳動現象では、粒子周囲のイオンの追従特性を反映した非線形効果が伴うため、泳動速度の時間依存性がべき乗則に従うことが予言されている。しかし、この時間依存性を観測するには高光感度、高時間分解能の光散乱計測手法が必須であり、未だ観測結果は報告されていない。 我々はこれまで、固体レーザーを用いて微弱散乱光を高感度で検出するオリジナルの自己光混合効果の研究を展開してきた。この手法では、レーザー光を試料に照射することで生じる散乱光をレーザーに帰還させると、散乱帰還光と発振光が干渉し、発振レーザー光が強度変調される。変調された発振レーザー光には試料の情報が重畳されており、レーザー光を検出器で観測することで試料の状態が評価できる。この自己光混合法を用いて、コロイド分散液(粒子径330 nm)の泳動速度の時間依存性が観測できた。観測された泳動速度の時間依存性は指数関数から逸脱し、べき乗則を示した。しかし、粒子径1μm以下では、散乱光強度は粒子径の減少と共に急激に減少するため、既存の自己光混合法では粒子径が10 nm以下の粒子の泳動現象の実時間観測ができない。そこで本研究は、自己光混合法の高光感度化を達成し、粒子径が0.1 nm~1μmの粒子の電気泳動現象の実時間観測を行い、泳動現象の全容を明らかにすることを目的とする。 本年度の研究では、自己光混合法の高光感度化を推進した。具体的には、1.計測原理の確認、2.ルビーレーザのセットアップ、3.変調速度の時間依存性の取得と解析を行った。また、オリジナルの手法で、ガウス形状のルビーレーザ光の発振を達成した。次年度は、このCW発振を達成し、自己光混合法の超高感度化を達成する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、1.計測原理の確認、2.電気泳動セルの開発、3.ルビーレーザのセットアップを行った。 1:レーザーでポンピングされた反射フラットエンドミラーを備えたLiNdPレーザーで、非ゼロの明るい外輪放射を伴うTEM00モードにつながる特異なレーザーパターンの形成が観察された。この熱レンズ効果は、自己光混合の根底となる変調現象の起源であり、決定されるレーザービームのスポットサイズよりも大きな集光スポットサイズを持つダイオードレーザで励起すると、レーザー発振の光子寿命は純粋な場合に比べて大幅に短縮されることがわかった。また、自己混合レーザードップラー流速測定実験と数値シミュレーションにより、固有モード振動の自然放出因子が、純粋なモード振動に比べて大幅に減少することが明らかになった。この結果を用いると、従来のレーザ結晶を用いても、光学系の適切な設計で自己混合レーザードップラー流速測定の大幅な感度向上が達成できた。 2:ルビーレーザを用いた自己光混合計測を行うために、ルビーレーザの開発を行った。昨年度の研究では、十分な強度のルビーレーザー光は得られなかった。そこで本年度は光学系の再検討を行った。具体的には、ルビー結晶への反射・透過蒸着膜の検討と実施、光学系の再設計を行った結果、十分な強度のレーザー光を発振することができた。しかし、パルス発振のため、連続的な自己光混合計測の達成には至っていない。 3:ルビーレーザの開発と並行して、GdVO4レーザを用いて、変調速度の時間依存性の取得と解析を行った。当初予測の通り、速度の減衰関数はDebye型から逸脱しており、KWW型の応答関数で記述できた。Debye型からの逸脱の分子メカニズム解明のために、計測条件とKWW関数の形状パラメータの比較検討を行った。
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今後の研究の推進方策 |
自己光混合法では、変調強度がレーザー媒質の蛍光対光子寿命比の自乗に比例する。共振器長に比例した短い光子寿命(~数100 ps)を有する薄片固体レーザーの蛍光対光子寿命比は他のレーザーに比べて極めて大きいため、自己光混合法の光源に用いることで高光感度での変調波の観測が可能となる。最終目的であるナノコロイド粒子の電気泳動現象の実時間変化の観測では、従来の手法に比べて高い光強度を得るために、上記のレーザに比べてさらに蛍光寿命が長いルビーを用いることを検討してきた。次年度はCW発振を目指すために、結晶濃度の調整と形状の検討を行う。 一方、この自己光混合法の原理の確認の中で、GdVO4レーザの発振手法を従来の方法とは異なる配置にすることで、光感度の増強が見込めた。そこで、次年度も、GdVO4レーザを用いた手法の両面から研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
ルビー結晶が硬いため、加工できる業者を見つけることが困難で、支出計画に遅れが生じた。次年度は本年度にピックアップできた作業可能業者との協議を行いながら、予算執行を行っていく予定である。
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