研究課題/領域番号 |
21K03493
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
鈴木 健太郎 神奈川大学, 理学部, 准教授 (60512324)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ジャイアントベシクル / ケージド化合物 / 走光性 / ベシクル輸送 |
研究実績の概要 |
内部に様々な溶液を封入可能な袋状の分子集合体「ジャイアントベシクル」の内部に、照射された紫外線の方向に自ら動く「走光性油滴」を封入し、この油滴の作用によってベシクル全体が能動的に駆動する「動くベシクル」の構築を目指した研究を行った。 初年度である2021年度は、走光性油滴を封入したベシクルの効率的な調製法の構築を目指した研究を主に行った。塩基性緩衝液中に、オレイン酸を界面活性剤として、ケージド脂肪酸油滴を分散させたエマルションを調製した。これを、リン脂質を溶解した流動パラフィン溶液に加え、流動パラフィン内部に油滴が分散された水滴を含む、o/w/oエマルションを調製した。これを、容器内で塩基性緩衝液に浮かべて遠心分離を行うことで、リン脂質から成る粒径数十マイクロメートルのベシクルの内部に、粒径数マイクロメートルのケージド脂肪酸油滴が封入された試料の調製可能なことが確認された。さらに、ベシクル外水相には、ほとんど油滴が存在しないことも、併せて確認された。複数回実験を繰り返すことで、ほぼ確実に、同様のベシクルが調製できるようになった。このようなベシクルに、外部から紫外線を照射したところ、約1時間の紫外線照射後に、ベシクル全体が動く挙動が観察された。ただし、このダイナミクスは確実に観察されるのではなく、全く動かないベシクルや、動き出す前にベシクルが破裂することなども、併せて観察された。このようなダイナミクスの違いは、ベシクル内部に封入された油滴の数や大きさに影響されるものと考えられる。 さらに、走光性油滴を利用したベシクル駆動という考え方を拡張し、ガラス表面状に油滴を固定し、その周辺に起こる水流を用いた駆動系についても研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、申請時に示した研究計画に従い、主に、油滴封入ベシクルの調製条件を検討する実験を行った。水相に浮かせたo/w/oエマルションに遠心分離を行う方法で、油滴封入ベシクルが安定的に調製できる条件の確立に成功した。さらに、それらのベシクルに紫外線照射したところ、ベシクル全体の動きや、破裂といったダイナミクスが出現することも確認した。破裂は、それ自身は、油相に対して不利なダイナミクスと考えられるが、本申請研究では、最終的に、駆動完了後のベシクルを破裂させ、内部からの物質放出を目指しており、そのようなダイナミクスを実現する上で、参考になるダイナミクスであるとみなせる。 ただし、油滴の駆動まで、一時間以上の紫外線照射が必要で有り、これがどのような内部機構によるものであるのかはっきりしないが、観察されたダイナミクスに関連する本質的な情報を含んでいる可能性があり、その詳細について検討を行っていきたい。 さらに、同時に研究を行った、ガラスに固定した油滴を利用した駆動系においては、水相に拡散したビーズ等を駆動できることを確認した。この手法は、走光性ベシクルと組み合わせることで様々な物質輸送への活用が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、走光性油滴を封入したベシクルを実際に調製し、これが紫外線の照射下において駆動したり、破裂したりするダイナミクスを示すことを確認した。今後は、このようなダイナミクスの違いが、油滴封入ベシクルのどのような違いによって生じるのかを検討するために、紫外線照射前後のベシクルの詳細な顕微鏡観察を行いたい。この際、本年度導入した、粒子画像流速測定法を利用した解析ソフトウェアを利用して、本系を構築する様々な粒子や液相における「流れ」の詳細を併せて検討したい。 さらに、ベシクル自体を任意の方向に動かすことに着目すれば、油滴をベシクル内部に封入せずとも可能であることが、本年度の研究から明確となった。この方法の方が、油滴構成分子の光分解反応と駆動との関連性が明瞭であり、油滴封入ベシクルのダイナミクスを理解する上での重要な知見が得られると期待される。そのため、油滴ベシクル封入と平行して研究を遂行していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、購入を計画していた紫外線照射装置が、コロナ禍による影響による世界的な半導体不足の影響を受け、年度内の納入が急遽不可能となったため、購入をキャンセルせざるを得なかった。これに関しては、次年度以降購入可能であれば購入し、購入が難しいようであれば、代替機の導入を計画している。また、参加した学会(日本化学会年会)が、対面での開催からオンライン開催へと変更となったため、旅費が抑えられる結果となった。これに関しては、コロナ禍の沈静とともに、積極的に学会参加し、これまで十分に行えてこなかった対面でのディスカッションの機会を確保したいと考えている。
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