生命現象を理解するには、構成要素である生体ナノ粒子が機能を発現している状態の過渡的な瞬間構造を捉えることが不可欠であり、超短パルスのXFELを利用したコヒーレント回折イメージング(CDI)は、そのポテンシャルをもつ。その実現のためには、試料以外からの背景散乱、ノイズ、検出器の不感領域等が含まれる実験データから確からしい試料の電子密度を再生する位相回復法の開発と、その信頼度の定量化が希求される。本研究では、これまで培ってきたCDIデータ解析技術を発展させ、統計学的観点の工夫を取り入れることで、次の2つのデータ解析手法開発を行う。 (A) ベイズ推定に基づく背景散乱除去付位相回復法 (B) イメージ画素毎に解析結果の信頼度を定量化する確率的電子密度解析法 令和4年度までに(A)の手法を当初計画通り開発し、その適用範囲を調べたところ、70Sリボソームを対象としたSACLAの測定条件ではS/N比が低すぎるため適用が難しいことが判明した。令和5年度は、開発した(A)の手法の適用範囲内である回折パターンについて、(B)の解析法開発を行った。具体的には、初期乱数を変えて(A)の手法を適用し位相回復した試料像データセットを統計的に解析することで画素毎の信頼度を定量的に評価し、その結果を可視化する手法を開発した。これにより、実験回折パターンから位相回復した試料像を、部位毎の信頼度に基づき議論することが可能となった。S/N比が非常に低い実験回折パターンへの対応が今後の課題である。
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