巨視的なプラズマの流動現象を記述する磁気流体力学(MHD)は天体物理学や核融合研究など、様々な分野の理論・数値計算において広く用いられている。しかし、密度が希薄になるとMHD近似がそもそも破れるため、プラズマと真空をつなぐ界面(=自由境界)領域を扱えないという問題がある。現実の宇宙プラズマの成層分布や磁場閉じ込めプラズマの密度分布においては、密度が徐々に数桁も小さくなっていくような勾配が存在するが、そのような場合も徐々にMHD近似が破綻すると考えられる。これに対し、二流体方程式やPICシミュレーションを用いる方法が近年とられているが、プラズマ振動やサイクロトロン振動までをも含んだ第一原理的な数値計算は計算コストが非常に大きいという問題がある。本研究では、電子慣性効果とホール効果を取り入れた拡張MHD方程式を数値的に解くことで、プラズマと真空の領域をつなぐ解が得られることに着目し、拡張MHDシミュレーションを行うことで自由境界問題を物理的に正しく扱えるのかどうかを検証した。 具体的に、円柱プラズマの軸方向に一様な磁場と電圧をかけて放電プラズマを閉じ込めるZピンチ平衡を解析の対象とし、拡張MHD方程式を解くことで真空領域に囲まれたプラズマの平衡解を理論的・数値的に調べた。その結果、密度がゼロに近づき、オームの法則において電子慣性効果の寄与が大きくなるところでは、電子粘性の効果も非常に重要であることが明らかになった。電場によって電子が加速されるため、何らかの衝突効果で律速されないと平衡状態が実現せず、拡張MHDにおいては電子粘性がその役割を担う。数値的には真空領域において、非常に小さい密度と有限な流速が分布しているゴーストプラズマが存在するとし、微小ではあるがゼロではない電子粘性を適切に考慮することで拡張MHDシミュレーションは真空領域を自己無撞着に扱えることがわかった。
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