研究課題/領域番号 |
21K03502
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
西村 征也 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 那珂研究所 先進プラズマ研究部, 主幹研究員 (70548544)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 磁気圏プラズマ / 磁気圏-電離圏結合 / フィードバック不安定性 / 運動論的アルフベン波 / ジャイロ運動論モデル / 双極子磁場 |
研究実績の概要 |
昨年度までの研究においては、ジャイロ運動論モデルを用いた双極子磁場におけるフィードバック不安定性の線形シミュレーションを行う手法を確立した。磁力線に沿った速度空間の分解能の大きな違いを克服するために、磁気モーメント空間で予め積分を行ったモデルを使用し、数値不安定性を引き起こす揺動ミラー力項が陽に現れないような電子揺動分布関数のモデルに限定した。 以上のモデルを用いて、フィードバック不安定性の線形シミュレーションを行った結果、磁気流体モデルを用いた結果と比較して、有限イオンラーマ半径効果や電子ランダウ減衰のような運動論的効果によって、成長率が強く抑制され、磁力線に垂直な波数スペクトルにピークが形成されることが観察された。また、線形発展において、電子の自由エネルギーが、電磁場の揺動エネルギーよりもはるかに大きな値を持つことが観察された。このような大きな電子の自由エネルギーがどのようにして生成されるかを明らかにするために、エネルギー保存則に基づく解析を行った。その結果、大きな電子の自由エネルギーを生み出すのは、非一様な平衡における熱力学的な仕事であることが明らかになった。また、フィードバック不安定性によって成長するアルフベン波と波粒子相互作用を行っている電子が、主に熱力学的な仕事を生み出していることが明らかになった。さらに、熱速度とは異なる速度帯の電子にエネルギーが渡されることにより、電子の自由エネルギーの大部分は、高次の流体量の揺動エネルギーとして蓄積されることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究においては、双極子磁場によって近似された磁気圏に対してジャイロ運動論モデルを適用して、フィードバック不安定性の線形シミュレーションを世界で初めて実施した。その結果、背景場の非一様性に起因して、波粒子相互作用を行っている電子に集中的にエネルギーが渡される機構が存在することが新たに明らかになった。これは磁気圏プラズマにおけるアルフベン波乱流の特性と電子加速機構に対する理解を進展させる新しい知見である。従って、研究は概ね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においては、線形シミュレーションにおいて揺動ミラー力の効果を数値的に安定に扱う手法を検討する。フィードバック不安定性の発展においては、揺動電子分布関数の速度空間構造において、位相混合に伴って微細な構造が形成される。揺動ミラー力の項は速度空間の導関数を含むため、微細な構造が存在する場合には数値計算誤差が大きくなり、数値不安定性を発生する。この問題を回避するために、速度空間の独立変数を、平行速度と磁気モーメントの組み合わせから、運動エネルギーと磁気モーメントの組み合わせに変更する。このようにすることで、揺動ミラー力の項は速度空間の移流項と部分的にキャンセルし、速度空間の導関数を含まない方程式系となる。このような方程式系においては、位相混合と揺動ミラー力の共存を数値的に安定に解くことが可能になると考えられる。この手法を用いた数値シミュレーションコードを開発し、フィードバック不安定性の線形安定性解析を行うことにより、世界で初めて揺動ミラー力の効果を明らかにすることが可能となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染拡大等により、海外出張を行うことができないなどの、研究計画の遅延が生じた。研究期間を1年間延長して、残額を令和6年度の研究活動のための予算として出張旅費等に当てる予定である。
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