研究課題/領域番号 |
21K03523
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
伊庭野 健造 大阪大学, 工学研究科, 助教 (80647470)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | パルスレーザー / プラズマ / 複合プロセス / 薄膜 |
研究実績の概要 |
高密度成膜が可能なパルスレーザー蒸着法(PLD)の欠点である形成薄膜の非均一性などの課題について、背景プラズマを用いた複合PLDでの解決が期待されている。そこで本研究では複合PLDにおける物理過程の解明を目的の1つとした。 本年度はECRプラズマ源を用いて実験を行った。ECRプラズマ実験装置内において、プラズマは横方向に流れており、被照射試料(合成石英)は流れに対面するよう垂直に設置した。さらにPLDターゲット(タングステン:W)を被照射試料の前部に設置したが、このときPLDターゲットはプラズマ流れに対して平行に設置し、PLDによるアブレーションプルーム(放出粒子)が直接試料に堆積しないように配置した。つまり、ECRプラズマがない状況では、パルスレーザー照射を実施しても試料には堆積が起こらない。しかし、ECRプラズマを背景プラズマとした場合にPLDを実施すると、試料へのW堆積がみられることを確認した。さらに、試料ホルダを-60Vバイアスした場合は堆積がみられるが、-20Vと小さくした場合は堆積が減少することが分かった。 複合PLDに使用するガスを不活性ガスであるヘリウムから、活性ガスである酸素に変更して実験を行ったところ、酸化タングステンの形成を示唆する黄色い薄膜の形成が確認された。この際、背景プラズマの代わりに酸素ガスを使用した単純なPLD堆積も併せて実施したところ、金属光沢を示すタングステン薄膜が確認された。このことから複合PLDにおいて化学反応をさせながら堆積が可能なことが示された。ただし、反応が起こっているのが気相中(プラズマ相中)か、堆積薄膜表面かは本結果からは判断ができない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複合PLDにおける背景プラズマとPLDアブレーションプルームの相互作用(背景プラズマによる輸送効果、化学反応活性化)を確認した。本研究で得られた成果は、事前の仮説を裏付ける結果であった。ECRプラズマ(10^18m-3)において中世ガス粒子とイオンの衝突平均自由工程は0.1~1m程度であり、寄与は小さく、背景プラズマが直接PLDプルームを輸送するとは考えにくい。しかし、電離衝突の平均自由工程は1~10mm程度であり、PLD粒子の一部はイオン化する。試料ホルダの負バイアスにより、イオン化されたPLD粒子が加速されると、周辺のPLD粒子と衝突し、運動量を与えて、試料ホルダ方向にPLD粒子群を引き付ける予想した。本研究では実際にバイアスを小さくすると堆積量が減少することを確認し、事前の仮説と合致する結果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
背景プラズマによる輸送効果を確認できたことから、今後はより複雑な複合PLDプロセスの確立に挑戦する。特に背景プラズマ源としてECR装置に加えてマグネトロンスパッタ装置を利用し、単なる背景プラズマに加えて、スパッタ粒子を含んだ背景プラズマを利用可能にする。マグネトロンからの粒子供給とPLDからの粒子供給を兼ね備え、同時に反応性プラズマを利用し、高効率に機能性酸化物半導体(OS)薄膜の実現する手法の確立を目指す。その際に使用するマグネトロンターゲット、PLDターゲット、ガス種類に加えて、マグネトロンバイアス、PLDレーザーパラメータ(強度、パルス幅、デューティ比)、試料温度(室温~1200℃)を変えた実験を実施する。
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