研究課題/領域番号 |
21K03524
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
山下 佳雄 佐賀大学, 医学部, 教授 (50322300)
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研究分担者 |
合島 怜央奈 佐賀大学, 医学部, 講師 (30756143)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 大気圧プラズマ / 扁平上皮癌 / 免疫細胞 |
研究実績の概要 |
本研究の目的である「口腔がん患者に対する大気圧プラズマを利用した安全性の高い新規治療法の開発」を達成するために3つの目標を掲げた。①安全性を担保しつつ、口腔がんに対する大気圧プラズマの抗腫瘍効果を最大限に向上させる。②大気圧プラズマによる免疫細胞の賦活化を利用し、腫瘍免疫を高める。③臨床使用が可能なプラズマ照射装置の開発を行う。 現在、主に①②に関して、個別に実験を進めデータを収集している。結論的には抗腫瘍効果、ならびに免疫細胞の賦活化させる大気圧プラズマの照射方法等に関しては、ある程度、確立したと考える。ここまで免疫細胞の賦活化に関しては、照射条件の設定範囲が狭く、安定させるために非常に時間を要したため、研究がやや遅れている状況である。 当初は一定量の大気圧プラズマを腫瘍塊に照射することで、抗腫瘍効果ならびに免疫賦活化の両方を期待していたが、ここまでの個々の結果から、最適な照射条件が2つにおいて異なることが判明した。よって抗腫瘍効果を上げると免疫細胞の細胞傷害が大きくなり、免疫細胞の賦活化を優先すると抗腫瘍効果が大幅に落ちる、といった現象が予想された。よって目標としている新規口腔がん治療法を開発するにあたり、治療内容を見直す必要があることが判明した。「今後の研究の推進方策」にも述べているが、現在、追加の実験内容を加え、大気圧プラズマによる両方の効果を最大限に発揮できる治療法を模索しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1)口腔がん細胞株の由来、つまり発生臓器や転移性の違いでのプラズマに対する感受性に関しては、これまでの結果より感受性は細胞株ごとに微妙に異なることが判明した。ただし、転移性や臓器依存性などとの関連は見いだせていない。よって推測として、プラズマに対して耐性を導く遺伝的要因があるのかもしれない。 2)正常細胞、正常組織への安全性に関しては、いくつかの細胞株においてもHaCaT細胞同様に、プラズマ抵抗性を確認できた。もちろん照射線量が閾値を超えると、癌細胞同様に容易に死滅する。正常組織への影響を病理組織学的に解明する実験は、まだ遂行できていない。 3)免疫系細胞(B細胞、T細胞など)への大気圧プラズマ照射の影響に関する実験に関しては、照射条件がかなり厳密になるものの、細胞活性が上昇することが判明した。特に細胞増殖に関して、あるいは機能的活性のいずれにおいても確認された。その傾向はB細胞、T細胞、NK細胞それぞれにおいて異なることも判明した。ヒト血液からの免疫細胞での検証は、まだ行われていない。 4)In vivoにおける実験系は、まだ行っていない。この点に関しては、In vivo実験における照射量の問題、また照射方法(手技)を確立したところで開始する予定である。 5)免疫チェックポイント阻害剤の併用に関する実験も、まだ開始できていない。
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今後の研究の推進方策 |
癌細胞を死滅させる目的の実験系と、一方で免疫系細胞を賦活化させる目的の実験系は概ねおのおのに出来上がった。しかし大気圧プラズマの照射方法、照射量、タイミングは両者において完全に異なることが実験より判明した。当初はこれらを踏まえ、In vivoにおける実験系としてヌードマウス、scidマウスを使用し、背側皮下や舌に人工的に腫瘍塊を作製し、その腫瘍塊に対して大気圧プラズマを照射し腫瘍塊への影響を解析する予定でいた。抗腫瘍効果を望むと、免疫系の細胞の賦活化が得られないことから、実験方法を変更する。つまり腫瘍塊へは直接的に大気圧プラズマを照射し、一方で血液より採取したB、T細胞に適量のプラズマを照射し、賦活化した免疫細胞を移植する方法を用いて、抗腫瘍効果を検討することで研究を継続する。まずは個々の作用効果を確認する。一方で、計画にもあがっている免疫チェックポイント阻害剤の併用効果に関しても、おのおのの条件下で実験を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に施行した実験内容として、前段階となる自作のプラズマ発生装置の条件設定が主となり、予定していた細胞培養あるいは動物実験が計画通りには行えず消耗物品の経費がかからなかった。また実験結果に関しての学会発表等に関しても、COVID-19感染のため学会への不参加であったり、Web参加としたこともあり旅費も計上する必要がなかった。翌年度分としての助成金に関しては、予定していたIn vitro, in vivo実験の運用が必要となるため、十分に活用できると考える。
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