研究課題/領域番号 |
21K03545
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
小野 勝臣 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 研究員 (50627180)
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研究分担者 |
野沢 貴也 国立天文台, 科学研究部, 特任研究員 (90435975)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 超新星爆発 / 超新星残骸 / 分子・ダスト形成 / 重力崩壊型超新星爆発 / 超新星1987A |
研究実績の概要 |
重力崩壊型の超新星爆発のメカニズムは未だ解明されていないが、多次元効果が本質的であると考えられている。他方、超新星爆発から超新星残骸へと進化する過程で、超新星放出物質中では冷却に伴い分子やダスト (宇宙塵) が形成されると考えられている。しかしながら、超新星放出物質中でどのように分子やダストが形成され得るか解明されていない。大マゼラン雲で発見された超新星1987A は、観測的にも理論的にも最も良く研究された超新星であり、その放出物質中で形成されたと考えられる大量の分子・ダストの存在が観測的に明らかにされている。ゆえに、超新星での分子・ダスト形成を調べる上で非常にユニークな天体である。最近、ALMA望遠鏡による超新星1987A の観測から、CO および SiO 分子からの3次元的放射分布が初めて捉えられた。その分布は球対称から著しく逸脱しており、超新星爆発の多次元性との関連が示唆される。
報告者らのこれまでの研究から、超新星1987A が伴星進化した星の非球対称な爆発で起こった可能性が高いことが、3次元の大規模流体数値計算に基づくモデルから示された。今年度は、上記モデルへの適用を念頭に、超新星放出物質中での分子およびダスト形成を調べるため、必要な分子形成計算のための分子反応ネットワークの構築や1次元球対称モデルへの適用を行った。多数のテスト計算から、結果が採用した分子反応ネットワークやガスの温度進化に非常に敏感であることが分かった。ガス温度の進化は、CO分子の回転振動遷移放射による冷却や、放射性元素である 56Ni の崩壊に伴う高エネルギー電子による電離や分子の破壊およびガスの加熱に依存する。現在、これらの効果を取り入れた上で、超新星1987A の分子に関する過去の観測 (CO分子の回転振動遷移放射) と比較しながら、ガス温度の評価や分子反応ネットワークの選定を慎重に行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
概要で述べたように、超新星放出物質中の分子形成を調べるため、超新星放出物質のガス温度の評価や分子反応ネットワークの構築と計算コードの開発を行っており、現在も進行中である。超新星1987A では、過去に CO分子からの回転振動遷移放射が観測されており、その光度曲線が得られている。これがある程度説明出来ることを一つの指標として、ガス温度の評価や分子反応ネットワークの構築 (考慮する分子種や反応の選定) を試みている。その際、上記を様々に調整しながら超新星放出物質の one-zone モデルあるいは一次元球対称モデルに数多く適用したテスト計算を行ってきた。これまでの結果から、分子形成がガス温度の評価や分子反応ネットワークに敏感であること、加えて上記観測の説明が容易でないことが分かった。超新星放出物質はガスの膨張によって基本的には断熱冷却されるが、放出物質中の放射性元素である 56Ni の崩壊に伴う高エネルギー電子による電離や加熱、あるいは CO分子の回転振動遷移放射による冷却が効くため、これらの効果を適切に取り入れる必要があった。そのため、当初予定していたより進捗が遅れているが、現在、上記の効果を取り入れた上で、再度、CO分子の回転振動遷移放射の光度曲線の説明可能性を調べている。
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今後の研究の推進方策 |
現在、超新星放出物質の one-zone モデルや、上記で説明した超新星1987A の CO の回転振動遷移放射以外の観測 (比較的初期に観測された鉄の輝線やX線の光度曲線) を良く説明する3次元の流体計算に基づくモデルの角度平均を取った1次元プロファイルに適用し、CO の回転振動遷移放射の光度曲線をある程度説明可能な分子反応ネットワークや、ガス温度の評価に導入したパラメータを調べている。それらが一旦定まれば、まずは物質混合などの多次元効果に対する依存性を実効的に調べるために、完全に球対称な爆発の場合や、上記の角度平均したプロファイルに適用した場合の計算結果を比較し、爆発の非球対称性や、流体不安定性などによる物質混合の分子形成への影響を調べる。その後、上記の超新星1987A の3次元モデルへと適用し、ALMA の CO, SiO分子の3次元的観測と比較しながら、更に、物質混合や爆発メカニズへの示唆がないか議論する。同時に、分子形成計算からダスト形成計算まで繋げた計算も行い、これまで3次元の現実的な流体計算に基づく放出物質モデルには適用されて来なかったダスト形成計算を行い。超新星でのダストの形成可能性や、ダストの組成や大きさを議論する。Cassiopeia A 超新星残骸など、他の天体への適用も進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、研究の進捗が予定より若干遅れ、大規模計算を行う段階まで至らなかったために、必要な HDD などの購入を差し控えた。また、昨今の半導体の供給不足により HDD 関連機器等の入手が困難だったことも一因である。研究の進捗の遅れにより、研究成果の論文投稿にも遅れを生じているため、論文投稿費として予定していた分も未使用である。また、研究会等への参加のために旅費を確保していたが、最近のほとんどの研究会がオンラインで開催されており、旅費の必要がなかった。来年度はこれらの状況の改善が見込まれるため、上記の経費 (HDDおよび関連機器: 約40万円、旅費: 約10万円、論文投稿費: 約20万円) として今年度の未使用分を使う予定である。
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